第41章 輪廻 〜if〜 後
だけど…
「お前が、現実見てんのはわかるよ。
そんなふうにしたのは
お前が大っ嫌いなおとなだろう。
可愛い夢なんて見てらんねぇよなぁ」
少しずつ少しずつ、…
「だけどお前にだって感情はあるよな?
それは、櫻井にとって
自分を守るための大切なものだ。
だがいくら大切でも…お前の言う通り
それだけじゃ生きてけねぇ」
核心に近付いていく。
ここまで聞いたら、
いくら私でもわかるよ、先生の言いたい事。
「でも気持ちがなくても、生きてけねぇんだよ」
さっき私が言ったから。
気持ちだけじゃ生きてけないって。
私が本心を押し殺してることに
気がついちゃったんだよね、先生は。
そんな事するなって言うんでしょ?
「信じるとか大切にするとか
そういうのよくわかんねぇだろうからさ、
ただ楽しいことしようぜ。
したい事あれば何でも付き合ってやるから」
先生の言葉はわかりやすかった。
私の心の中にストンと落ちて
ぴったりはまったような気がする。
「うん…」
いつのまにか、
幸せな香りが部屋中に広がっていた。
「先生料理なんかするんだね」
「あぁ。最初は面倒だったけど。
もともと凝り性なんだ。やり始めたら
やめられなくなっちまって」
鍋に蓋をして
先生はくるっとこちらを向いた。
カウンターに両手を突いて、
「あとは待つだけー」
にっこりと笑う。
まるで、空いた時間なにするー?と
訊かれているようだった。
「先生は何ともないの?」
「ん?」
「私が居座ること」
「…何ともねぇワケがねぇだろうが。
でもまぁ……。楽しくなりそうじゃね?」
「楽しく、なるかな…?」
「しようと思えばなる。
1人の時にしか出来ねぇ事もあるけどな、
2人じゃなきゃ出来ねぇ事もあんのよ。
それを、していこうな」
そんなふうに考えたことなかったな。
先生といると、ちょっとイイかも。
「いいね…。楽しい事か」
「櫻井は何するのが楽しいんだろうな」
「…なんだろ」
「ないのか?」
「楽しい事なんかわかんない」
「そりゃいいな」
「えぇ?どこがいいの?」