第41章 輪廻 〜if〜 後
「……」
先生は手元を見るために見下ろしていたけれど
ピッと背を伸ばし正面を見据えたあと
くるりと上体だけをひねり
こちらを向いた。
「……何」
「いや」
絶対に何か言いたそうにしてるくせに、
先生は何も言わないまま前を向き
また何かを炒める手を動かし始めた。
言う気がないのか
言っても無駄だと思われたのか…
呆れられるようなこと言ったかな…
「…何作ってるのー」
「晩メシ」
「知っってるー!」
他の人が言うことなら流せるのに
この人が言うと何故か引っかかる。
すごくむかつくのは何でだろ!
「晩ご飯のメインのおかずはなぁに!」
言い逃れられないくらいピンポイントで訊くと
「具沢山シチュー」
先生はあっさりと答えを寄越した。
「シチュー⁉︎」
「おぉ。…あれ?嫌いか?」
「大好き」
「なんだ、」
先生はちょっと笑って、
「じゃたくさん食えよ?」
顔だけ少しこちらに向ける。
「栄養も愛情もたっぷりだ」
向こうを向いているのに、
目の前の壁に跳ね返ってよく聞こえる。
先生の声は大きい。
私に聞かせようとしてるからに決まっているけど
…
私もこれくらい大きな声が出せていたら
もっと早くに誰かに届いていたのかな…
それにしても、
「愛情って……」
よくそんなこと、恥ずかしげもなく言える。
私のその言い方がバカにしたみたいに
聞こえたのかもしれない。
「あのなぁ?」
先生はそこから、
『先生モード』に突入した。
「育ててる花に声をかけたら
花はそれに応えるそうだ。
元気か?とか、がんばれとか、
きれいだなとか話しかけると
花は枯れずに育つんだってよ」
「ふぅん…」
「それは花が、
俺らの気持ちに応えるって事だろ?
花にだってこっちの気持ちは
ちゃんと伝わるんだよ」
「そうなんだ…」
「メシだってな、
食うヤツの事を考えて作るだろ。
そいつが笑って美味いって言ってくれるように
おいしくなぁれの魔法をかけんだよ。
それは俺の愛情って事になる」
さっきから、
先生が何で急にそんな話を私に聞かせるのか
まったくわからなかった。