第41章 輪廻 〜if〜 後
さっきと同じサイズのりんごが
ゴロゴロ入ったお皿を
ダイニングのテーブルに置いて
先生はまたキッチンに戻って行った。
その背中を見送りながら
私はある事を考えていた。
『甘える』という事についてだ。
実の母親にだってさせてもらえなかった事を
この人にするなんて…
出来ると思うか?
ていうか、そもそも甘えるってどういう事?
何も考えずに好きな事をしていいって事?
相手のことを考えないで
自分のしたい事だけしてるって事?
…それじゃあの人と同じだよ。
それが甘えるって事なんだとしたら、
私は甘えたくなんかない。
あの人と同じになんかなりたくない。
「…先生」
私はダイニングテーブルに置かれた
りんご入りのお皿の前の席についた。
「なんだー?」
包丁で、何かを切っている先生は
そっちに目をやりながら
意識だけを飛ばしてくれる。
「甘えるのムリかも」
「んー?」
「何が甘えるってことなのかわかんない」
「…そっか」
「甘えさせてもらった事なんかないから
どうするのが甘えるって事なのかわかんないよ。
好き勝手やっていいのが甘えなんだとしたら
私にはムリだから…ここには居られないかも。
条件満たせないもん。
私は、あの人と同じになんかなりたくないんだ」
私が一気に吐き出すと、
先生は手を止め、目を上げた。
「甘えるってのはな、定義があんだよ」
てっきり、機嫌を損ねるとばかり思っていた。
厚意を無駄にしたから。
でも先生は優しい目をしてる。
「…定義って、どんな?」
「俺がイヤかイヤじゃねぇかだ」
「先生が…」
「そうだ。
ここでは、お前が甘える相手は俺だな?
だから俺目線で話すけどな、
例えば櫻井が好き勝手したとしても
俺がイヤじゃなければそれでいい」
「先生がイヤかイヤじゃないかなんて、
そんなの余計にわかんないよ」
「そうだろうな。
でも俺、大抵の事はイヤじゃねぇよ。
女にわがまま言われると嬉しいモンなんだぜ?
可愛いしな」
「……」
何言ってんだろこの人…
あれ?私生徒だよね?
なにこの恋愛の指南みたいなの。