第41章 輪廻 〜if〜 後
先生はキッチンカウンターの向こうから
「お前の服とか
ひと通り持ってきたからな。
制服もあるから
明日からちゃんと新しいの着ろ」
早速作業を開始しながら言った。
先生が顎で差した方に目をやると
見覚えのある大きなバッグ2つ分から
私の服やら日用品やらが溢れていた。
「ちなみにソレ詰めたのは校長だから。
俺じゃねぇから勘違いすんなよ」
つまり、
自分は私の服や下着には触れていないと。
まぁ校長先生は女性だしね。
…そういう事?
「別に。気にしないけど」
「俺がすんだよ」
「そーですか」
「なぁ、」
「はい?」
荷物の元へ向かおうとしていた私は
足を止めて先生の方に向き直る。
「お前、ほんとにここでいいワケ?」
「……」
「深読みすんなよ!」
バレた。
先生はやだろうなぁとか思っていた。
でも、それをするなと言ってくれるなら
私の方には、ここがイヤな理由はない。
贅沢に選んでいる場合じゃないからだ。
「ここしかない。友達も親戚もお金もない」
「ならいい」
……
「バイトするね」
「絶対ぇそう言うと思った。
あのなぁ、ここに置いてやるが条件がある」
「条件?なに?」
「甘えろ」
「…条件が…それ?」
「そう。この部屋の家賃とかメシ代とか
何も考えずに常に甘えてること。
それが、ここにいる時の条件な」
「……」
「…ムリだよなぁ?
今までしてきた事と真逆のことだ。
だけどな、櫻井は
ちょっと休まなきゃだめだ」
先生は何を作り始めたのか、
キッチンの中で忙しなく手を動かしながら
淡々と話を続けた。
「お前マヒしてんだよ。
自分がどんな目に遭わされてきたのかも
よくわかってねぇよな?」
先生はパタパタとスリッパを鳴らして
私の元までやって来た。
手の中には、りんご?
「そんなに恋しかったかよ…」
小さくカットしたそれを
私の口に押し込んで
「メシが出来るまでコレ食ってろ」
濡れた指先が私に触れないように気をつけながら
私の肩をきゅっと抱きしめた。
だけどそれも一瞬のこと。
「皿に入れとくから好きに食えよ」