第41章 輪廻 〜if〜 後
リビングに入ると、
先にそこにいた先生に
ソファに座るよう促された。
黒いくたっとした革張りのソファが
私の体重を受け止めて遠慮がちに沈んだ。
このソファは座面の奥行きが広い。
故に浅く腰掛けると背もたれには
まるで届かない…。
その代わり、深く座ると余裕で胡座もかけるし
スツールを合わせたら足も伸ばせる。
ついでに肘掛けも幅広で
しかもフラットだから、
ちょっとしたもの…例えば
スマホやリモコンなんかが置けるし、
寝転んだらちょうどよく枕にもなりそうだ。
硬くないのにへたりもしないこのソファは
私の身体にもしっくりくる。
1日このソファの上ですごしたいくらい
座り心地が良かった。
私から1.5人分、間を空けて座った先生は
しばらくこちらに横顔を向けていたけれど、
何かを決めたように大きく息を吐いて
パッと私の方に体ごと向いた。
何から話そうか、
悩んでいるように見えた。
「…櫻井の、母親には会えた。
校長と一緒に。話もして来た」
「うん…」
「主に、今まであった事の確認と、
これからの事について話したんだが…」
珍しく、歯切れが悪い。
だいたい見当はつく…。
「先生、私多分大丈夫だよ」
何を聞かされても大丈夫。
そんな気がするんだ。
あんなに執着していたのが嘘みたいに
全然気にならなくなっていた。
母親以外にも頼れる人がいるんだという
可能性を知った途端に、
あの人の事がどうでもよくなった。
それは間違いなく、先生のおかげだけれど、
先生以外にもきっと
もっと頼れる存在があるはずなんだ。
今まではあまりにも
あの人しかいないと思い込んでいたから
すべてを見失っていたんだ。
思い込みって怖い。
親の教育って、恐ろしいな。
それがすべてだと思わせる。
特に私は、小さい時から刷り込まれていたから
余計に他の選択肢がなくなっていた…。
「本来なら公にして
取るべき措置を即執行すべきなんだろうが…
向こうの出方次第、かなと。
お前も、あんまり大事になって
学校にいられなくなったら困るだろ?」
私が、
学校は辞めたくないと言ったから
先生は最大限の配慮をしてくれている。