第40章 クリスマス
お菓子を買うことより、
天元との暮らしの方が大切な私にとって
あそこに並ぶための時間は
なかなかの厄介者だった。
並ばずに買えるならきっと買っていた。
だって食べてみたいもん。
そしてこの、
今目の前に広がっている、何とも幸せな光景…
私の手の中に
憧れの箱が収まっているのだ。
食べたいのに諦めた、このお菓子…
重さと、揺らした時のゴソゴソ言う感じが
中身はチョコレートである事を教えてくれた。
誰?
誰がこんなに素敵なものを私にくれたの?
天元かな?
私が食べたい事に気がついて
買っておいてくれたのだろうか。
彼ならそれだってあり得ない事じゃない。
私が喜んだり、いい意味で驚いたりする事を
苦に思う事なくこなしてくれるからだ。
あぁ、なんて素敵な旦那様…。
この素敵な瞬間を
私が独り占めするわけにはいかない。
そう思った私は
綺麗な箱を手にすっくと立ち上がった。
この感動が薄れてしまわないうちに
誰かと分け合わなければ…!
天元は私とすれ違いに
出かけてしまったようだから
とりあえず離れにいるだろう、
3人のうちの誰かと分かち合おう。
そう考えた私は
いざ離れへと向かうのだった。
離れはお勝手口の通路と繋がっている。
勝手知ったるヒトの家。
いつでもおいでと3人から言われている私は、
それを都合よく鵜呑みにして
ちょこちょこ遊びに来させてもらっているのだ。
お勝手口に置いてある草履は今
風通しの良いところに干してある。
なので私は玄関に回り
自分の下駄で離れの入り口へと向かった。
中へ入り広い茶の間を覗くけれど
人の姿はなし。
それぞれのお部屋を訪ねても
みんな出払っているようで
返事も気配もしなかった。
…声をかけたけれど返事がなかったから
不在だと認識したけれど、
実際に部屋の中を見たわけじゃない。
もしかしたらお昼寝をしているだけで
そこに居たのかもしれないけれど…
あの働き者の3人が
この時期のこの時間に眠っているとも考え難い…
という事は…
やっぱり用事で出掛けているのだ。
私は仕方なく、茶の間へと戻り
テーブルの端にそれを置いた。