第39章 輪廻〜if
「お前が許しても、俺は許さねぇ。
だから罪を償ってもらうつもりで話をする」
「罪……」
「どんなんでもお前の母親だ。
この先、会う事はなくても母親は母親だから…
だから一応言っておくが、
例えばどんな結果になっても
この件に関しては俺に任せてもらえないか」
「……」
睦は呆けたように床に視線を落とした。
決めきれねぇよな、こんなの。
その事でずっと悩んで悩んで
誰にも言い出さずにいたってのに。
潜在的に大好きな母親と一介の教師。
どっちを選ぶかなんて一目瞭然だ。
だけどどうか…
俺を選んでくれねぇかな。
なんて、高望みにも程があるか…
でもそうじゃなきゃ先に進めねぇ。
これが1番いい形だと思ったから
このまま進めていきてぇところだけど。
そんなふうに半分諦めていた。
なのに…
「ありがと…」
睦は泣き笑いみてぇな顔をして
ありがとうなんか言いやがる。
腹の奥底から湧き上がるこの感情は何だろう。
全身に震えが走るようなこの感覚は、何だろう。
「…それは、私のためね…?」
抱えた膝が震えていた。
その指先も、震えている。
「あの人を諦められない、私の為でしょう?
あの人が罪を償えば…
更生するって思ってるから…」
「…そうだ。お前の母親が
お前を頼らずに生きられれば……」
その先は、言う事が出来なかった。
あまりにも酷だ。
「…私の存在は、必要なくなるね」
怖くて怖くて仕方がないのに
無理やり笑ったりして…
虚勢を張ってみせるこの小さな存在が
ひどく愛しくなった。
精一杯、前に進もうとするその姿に
胸を打たれたよ…
俺の庇護欲を駆り立てる。
愛を知らずに育って、
それでも愛されようとするいじらしいお前を
何があっても守ってやりたくなる。
睦、お前を必要としてんのは
もう母親だけじゃねぇよ…?
「すぐにとは言わねぇ。
だけど、諦めがつかねぇと、
お前はずっとこのままだ。
現状からどうにか脱却したくて
俺に話してくれたんだよな?」
俯いた睦は
それでも小さく頷いた。