第39章 輪廻〜if

「私…あの人のこと好きだったけど。
私の話なんかまったく聞いてくれなくて。
いっつもそばにいてくれないし、
…それでも好きだったけどね？
最後に話した時、あぁもうだめなんだなぁって。
純粋に、私に興味がないんだなって
すごくよくわかったんだ。
もっと思い切り嫌ってくれてたら、
ちゃんと踏ん切りもついたのに…
こんな中途半端なの…1番ツラいよ…」

パタリと床に涙が落ちる。
そりゃあさ、愛されたいと思うよな。
だって母親だ。
今の話を聞くに、
1度だって話を聞いてもらえなかったんだろう。

この分じゃ、抱きしめられた記憶だって
あるんだかないんだか…。

「でももういいんだ。
どんだけがんばったってあの人は変わらない。
ならもうやめる。
あの人の為じゃなくて
これからは自分の為にがんばるの。
…先生、」

キッと上がった視線。
俺をまっすぐに見据える睦は
さっきまでとはまったく違って見えた。

泣いて萎れているだけじゃなく、
希望という水を得て立ち上がった野花のよう。
逞しくも見える睦の姿に
つい見入ってしまったが…

「なんだ」

返事を忘れる事はしない。
見守っていけるのなら、
そばにいて俺が1番に見届けてやる。

「先生は、それを見ててくれる？」

……それは、
たった今、俺が思った事だけど。

「あぁ、当然だ。
櫻井が見てろって言うなら
ずっとそばで見ててやるよ」

「ありがと。それなら私がんばれる」

うそつけ強がりめ。
不安が全身から滲み出てる。
いくら若いからって、
そんなにすぐに切り替えが出来るかっての。

怖いと泣いて縋る事も出来るのに
こいつはやっぱりそうしない。

これは俺が、日々精進努力をして
睦の心を解さなければと
そういう事なんだろうな…？
俺のことを正しく理解させて、
ちゃんと頼れるオトナにならなければ
睦も俺を頼れねぇって事だろう。

指先で涙を拭い、未来に歩き出した睦を
俺はそうっと抱きしめた。

「…触んな」

「今だけ」

「調子乗んないでよ」

「乗ってねぇよ」

俺らの会話はいっつもこんな。
こいつが素直になるのは、もう少し先の話。





☆彡