第39章 輪廻〜if
可哀想、なんて言葉じゃ片付けられない。
それじゃあ失礼だとすら思う。
大人を嫌いになって当たり前だ。
俺の手を振り払ってもおかしくない。
それなのに、こうして話してくれた事に
感謝すらしたいくらいだ。
俺を信じてくれた、って事でいいんだよな?
それはさ、
全力で応えねぇワケにはいかねぇだろ。
すべてを話し切って
俺の反応を見ているのか、
目をあちこちに泳がせて
どんどん縮こまっていく櫻井。
制服姿…
見ていて痛々しい。
スカートが夏物になっていたのも、
事情を知った今となっては…ツラいばかりだ。
制服のまま『お仕事』をさせられて
汚されたのだと言うのだから…。
話している所をずっと見ていたが、
男から受けた行為うんぬんよりも
母親に見捨てられたような気になった事の方が
心を押し潰しているみたいに見えた。
知らない男との事は『お仕事』だと言っていた。
その時は、別人格になっていたのか、
ただ割り切っていたのか…。
小さな櫻井は母親から、
お仕事だと教えられたというから
その『お仕事』を終えたら褒めてもらえると…
思っていたんじゃないだろうか。
でも一向に褒める事なく、
次々に『お仕事』を運んでくる母親に、
今日こそは、今日こそはと
毎日を過ごしていた櫻井がいじらしくて…。
愛情の欠如だ。
母親に愛されたい一心で
今までやってきたんだろうに。
自分に興味を持たない母親に
振り向いて欲しくてやっていたんだな。
こいつ自身、それに気がついているのだろうか。
今や、憎んですらいる母親に、
ずっと愛されたかったという事実に。
そこに気づいてしまった俺は、
もうたまらなくなった。
…それを自覚させたら
こいつは壊れてしまうんだろうか…
それだけは、避けたい…。
「よく、話せたな。怖かったか?」
「…思ったより、平気。先生は、」
俺の目を、不安そうにチラチラと見ながら
「…引いた?よね?」
すべてを曝してしまい、
逃げ場のなくなった櫻井は
ひどく神妙な面持ちで俯いた。
「いや。…ひとりでよく耐えたな。
長いこと、えらかったなぁ」