第39章 輪廻〜if
先生は気持ちを切り替えるかのように
小さく息をついて笑った。
「まぁ、そんな冗談に
付き合ってる場合じゃねぇよな」
あぁ、なんだろう。
縋り付いてしまいたくなるね。
そんな気持ちをグッと堪えて
私は自分の膝を抱え直した。
先生の腕に、
触れてしまわないように気をつけながら。
「誰かに言われた通りになんかしなくていいから
自分がいいようにしてろ。
行くとこ無くなったらここにいさせてやるし」
「…やだよ、学校の先生となんて。
息詰まるじゃん」
「あーそーネ」
「…殴れば?」
「ウソなのかよ」
人の話をよく聞いてるんだな。
私がチラッと言った事を
ちゃんと覚えてくれていた。
私がウソついたら、殴られるって。
聞いた事を頭の中で素早く処理できる人。
正しく理解して、頭に残しておける人。
余計な事は言わないし
してほしくない事にも気づいてくれる。
まともな大人がいるって証明をさせろと
言っただけの事はある…
うっかり信頼してしまいそうになるよ。
騙されないぞと思っている一方で
この人ならわかってくれるのかもしれないという
甘い考えが頭をよぎる。
伸るか反るかの時は、伸る事に決めている…
って、誰かが言ってた気がする。
助けてもらえるかもしれないし、
気持ち悪がられてオワリかもしれない。
だけど、話したくなった。
聞いてもらいたくなった。
それで終わるんだとしたらそれまでだ。
そうなってから、また考えればいい。
——それで、いいんだよね先生?
「先生、私ずっとね、」
下手をすれば、
人格否定。
に、繋がる行為。
たった今聞かされたばかりの現実は、
俺の想像を遥かに超えていた。
櫻井睦という人間の個人の尊厳は
何年にも渡って無視され続けて来たという事で
それを黙って耐えて来たこいつの
闇の深さを思い知らされた。
1番近しい筈の、
母親という存在にソレを強要され、
近しいからこそ拒否できないその心理を
いいように利用され続けて来た…。