第8章 続
随分、遠くまで来たような気がする。
自分のいる町を抜け、だだっ広い田んぼを通り
次の町に入っている。
あぁ、知らない町だ…。
なぜか、ホッとした。
賑やかな所を一人でフラつく。
可愛い雑貨屋さんを見つけた。
櫛や簪をたくさん売っている。
私は、それを1つ手に取って目の前にかざした。
深い青色の蜻蛉玉。
髪留めだ。
いい、な。コレ。
でも何故だろう、買う気にはならず、
そのまま戻した。
何をする気も起きない。
いつもなら心踊る、可愛い雑貨にも
何も感じない。
私、お店再開できるかな…
さっきまで輝いていた世界が、全てくすんで見える。
……もう私は、
知らない町をフラフラと歩くしかできなかった。
強い日差しに涼やかな風。
素晴らしい秋晴れのある日、
睦の店が開いていなかった、と
残念そうに須磨が帰って来た。
須磨は最近、睦の店がお気に入り。
少し前から通っているらしい。
俺からすれば、恐るべきニアミスだ。
それにしても、睦が店をサボるとは珍しい。
何の貼り紙もしていなかったとの事、
昨日は何も言っていなかったし
もしかして何かあったのかもしれないと思った俺は
雛鶴と須磨に様子を見てくるように頼んだ。
出来れば俺が行きたいが
今日は隊士の面倒を見てやる仕事がある。
まきをもお手伝い。
俺の、考え過ぎならいいんだが…
しかし昼過ぎ、1人戻った須磨が俺の元へやってきた。
…あれ、1人?
「睦様、すっごい熱ですよ!
今雛鶴さんがつきっきりでお世話してます。
お薬も飲んでくれましたけど、
もう、意識朦朧で大変です」
「何⁉︎」
すっごい熱で意識朦朧⁉︎
何だ、
その心配や不安を煽るばっかりの報告の仕方は!
咄嗟に立ち上がった俺を、
まきをと須磨が慌てて止める。
「待って下さい天元様!
今抜けられては隊士の方々が困ってしまいます!」
「天元様!雛鶴さんがいるんですから!
あたしも戻りますし!」
「「……」」
俺とまきをは、須磨を無言で見つめた。
…雛鶴は間違いねぇが…須磨…。
「お前、睦に余計な事言うんじゃねぇぞ?」
まだこいつらの存在を睦に話せてねぇ。
話そう話そうと思いながら、今まできてしまった。
…よくねぇよな。