第8章 続
「睦!悪かった。こんな事になる前に、
ちゃんと話すべきだったのに…」
「……」
あぁ、この人は今…
嫁の存在を、肯定した…
私は両手から、力が抜けていくのを感じた。
この人を、殴りつける気力もないや…
雛鶴さんは、
そういう関係でないような事を言っていた。
そうなのかもしれない。
でもこの人は、それを私に言わなかった。
都合よく隠していたように思えて仕方ないんだ。
だから、時間が欲しかったのに…。
私の様子が変わったのを感じ取ったのか、
抱きしめる力を緩める。
その瞬間、私はその胸を突き飛ばした。
「っ!」
2、3歩後ろに下がった彼は、私に、
突き飛ばされるなんて思っていなかったのだろう。
絶望に似た空気が、その人から感じて取れた。
「家のしきたりで、
15の時にあいつら3人を嫁にした。
でも俺の心には、もうお前がいたから、
あいつらには正直に話したよ。
一緒に里を抜けて、
頃合いを見て決別するハナシだった。
だがあいつらは、
俺の任務に手を貸してくれていた。それだけだ…」
15の時に、3人…?
…もう1人、いる。
私は混乱していた。
何の話をしてるんだか。
私はフラフラと、その場を去ろうとする。
「待て!」
私の手をつかむけれど、
私は、ただこの場を去りたかった。
「誤解しないでくれ。こんな話しをすれば、
お前に軽蔑される。それを恐れただけだ。
隠してたわけじゃねぇんだ」
…隠してたのと同じだ。
でも、どうでもいい。
今は頭を冷やす時間が欲しい。
心を落ち着かせる時間…。
私は下を向いたまま、その場を駆け出していた。
私は、何て弱虫なんだろう。
一生懸命、伝えてくれていたのに、
一言も発せず、聞き入れもしなかった。
きっとあれが、真実なのに…。