第39章 輪廻〜if
それを見て先生も吹き出したから
私はもっと笑ってしまったんだ。
そんな気分じゃ、全然なかったのに。
「もう冷めてんだから、劣化するばっかだぞ」
笑いながら先生が
早く食べろと促した。
「うん…」
ごはん食べるのも悪くないね。
こんなふうに、
誰かと笑っていられるんなら。
「風呂入りたい人ー」
日も傾いて、リビングが赤く染まり始めた頃
片手を上げた宇髄先生が
同志を集うかのように声を上げた。
「……入りたくなーい」
部屋の隅っこで膝を抱えていた私は
そう答えてから
また膝に顔を埋める。
「入れやー」
「おかしいでしょ。
入りたい人ー、って訊いたじゃん」
訊かれたから入らないって答えたのに
入れってどういうこと?
「昨日も入ってねぇんだよなぁ?
綺麗にしたくねぇのー」
「あ″ー‼︎」
私は掌で耳をトトトトッと叩きながら
大きな声を上げた。
「なぁにしてんだ?」
先生の声も、一瞬ずつしか聞こえない。
思い出したくない!
『昨日』って何のことだっけ⁉︎
「おい櫻井!」
膝で目隠し。
掌は耳に。
先生の声が近づいた気がして顔を上げた。
目の前に先生の膝があった。
…近い…っ
背筋がゾッとした。
「…ッ…」
声も出なくなって
もう下がれないのに思い切り後退する。
壁が背中にめり込む勢いだ。
「?…櫻井、どした?」
「……」
違う違う、この人は違う。
先生だ大丈夫。
先生…?
でも、
『男なんてそんなモンだろ』
あの日、こいつはそう言ったんだ。
「おい、どっかおかしいか?」
私の前に膝をつき
心配そうにこちらを覗き込む。
そうだよ、どいつもこいつも
優しいのを装って近づくんだ。
そんなのただの上っ面だ。
私を思い通りにするためだけの。
熱でもはかるつもりだったのか
こちらに向かって伸びて来た手を
私は思い切りはたき落とした。
予想外のことだったのか
先生は驚いて言葉も失っている。
私はその間に
少しでも距離を取りたくて
ずりずりと壁伝いに逃げた。
「顔、真っ青だぞ…?どうしたんだよ」