第39章 輪廻〜if
そして、確かに、
そこまでして褒めなくちゃならない理由もない。
心が歪んでるや。
素直にそう思っていただけなのに、
俯いた事で勘違いをしたのか
先生は私の顔を覗き込むようにして
「…無理して食う必要ねぇぞ?」
至って優しい声で問う。
顔を上げると先生は
本当に心配そうにしていて…
先生のそんな顔初めて見たし、
いつも結構適当にあしらわれていたからか
すごく新鮮だった上に、
誰かに心配してもらったことが
すごく嬉しくて…
私はつい、ふっと笑ってしまったんだ。
なんだろ、
先生がさっき笑っていたからかな。
私は雰囲気に、流されやすいんだろうか。
笑う気分なんかじゃ全然なかったのに
くすくすと笑いが溢れて仕方ない。
ついでに、
さっき食べた玉子焼きが
今更ものすごくおいしく感じて…
「ふふ…ぅ、…うぅ、」
私はもう、
泣き笑いみたいになった。
私の為に、誰かがごはんを作るなんて、
そんなことがあるんだな。
私の前で笑ってくれて、
話してくれて…
普通にしててくれる。
他の人にしてみれば
なんて事ないのかもしれない。
だけど私にとっては…
こんなに幸せなことはないんだ。
だってこんなふうに、
誰かがそばにいてくれたことなんて
今までにあったかな。
自分が悪かったのはわかってる。
誰にも助けを求めなかった。
怖くて1歩を踏み出せなかった。
だけど…
だけど悪かったのは、
ほんとに私だけだったのかなぁ?
のうのうと暮らしてるあの女は、
どうしてあんなに平気なんだろう。
何で私だけが、悪いみたいになっているのかな。
堪えていた感情が
涙と一緒にいっぺんに流れ出て行くみたい。
ずっと誤魔化して、溜め込んで、
堪えていたものが
先生が優しくなんかするものだから
タガが外れたかのように溢れ出てしまった。
私はみっともないくらいに泣きじゃくって、
…なのに先生は黙ったまま
何も言わなかった。
カシャンと小さな音が聞こえて
その後、しばらくしてから
大きな手が私の頭にポンと乗せられた。
そのままよしよしと撫でられる…。
触んじゃねぇよと思いながら
その心地良い感触にまた涙が溢れて、
今まで自分は誰からも、
そんなふうに優しく触れられた事がなかった事に気がついた。