第8章 続
「ありがとう!ちょっとそこまでー」
「ははっ、そうか。
元気になってよかったな。
それにしても、
大人っぽいのも、ホントよく似合うなぁ」
「だってオトナですもの」
ホホホと笑ってみせる。
今日の着物は深い紫色が基調。
大きい幾何学模様のモダンな柄だ。
「そうだなぁ。いつのまにそんなになったやら。
さ、日の高いうちに行っといで」
「はーい!行ってきます」
私は元気に、店の暖簾を出た。
久しぶりに浴びる、秋の日差し。
真昼の喧騒。
心地いい風。
私は目を閉じて、大きく息を吸った。
ぱちっと目を開き、歩き出す。
自分の店と反対の方向へ。
どこへ行こうかな…。
高い空を見上げて歩いた。
雲が流れてる。
今日は、いい陽気。
一歩進む毎に、心が晴れていく。
なのに。
私は脇道から伸びてきた手に引っ張られ、
すごい力でそちらへと引き込まれてしまう。
ほんの一瞬の出来事、
道ゆく誰もが、気づかない程。
「っ⁉︎」
危険を感じて、反射的に逃げようとするのに、
ぎゅうっと抱き込まれてしまい、
私は少しも動けない。
でも…この感じ。
私は、知ってる。
「…よぉ」
「…」
「元気になって、よかった」
私は、何も言えなかった。
さっきまでの、あの上向いた気分を返して欲しい。
胸が、痛い。
「…睦」
慎重に、私を、呼ぶ。
久しぶりに聞いた、優しい声。
でも今は、聞きたくない。
「睦、弁解をさせてくれねぇか」
「…っ」
…弁、解…。
この人が、そんなカッコ悪いことをするのか。
そもそも、私はそれを聞かないとだめ?
そんなものが、今の私を救ってくれるのだろうか。
私は下を向いたまま、首を横に振った。
この人の胸に、強く腕を立てる。
離してほしい。
私は散歩に行くの。
あてもなく。
「睦、頼む。聞いてくれ」
私の腕をつかんで、苦しそうに言う。
…何でこの人が苦しそうなんだ。
苦しめられたのは、私の方だ。
つかまれた腕を振り解くと、
ふいをつかれた彼は私を逃す。
でも反射速度はさすがと言うべきか、
すぐに私を抱き寄せる。
「…!」
私は両手で、めちゃくちゃに殴りつけた。