第8章 続
「じゃあ、ちゃんと本人から聞くべきよ」
「…わかってるんだけど…」
おばちゃんはイスからおりて膝をつくと、
私をぎゅっと抱きしめてくれる。
「怖いわよね、そんな話しするの」
おばちゃんのぬくもりが、
私の凍った心をとかしてくれる。
「怖い。だって、その人たち、
とってもきれいで優しくて…
そんな人たちが、自分はあの人の嫁だなんて言うの。
何もなくてそんな事言いださないでしょ?
きっと、ホントなんだもん…」
私は涙が止まらなかった。
限界まで溜め込んだ不安を初めて吐き出した。
それならそうと言って欲しかった。
周りから聞かされるんじゃなくて、
あの人の口から、最初に聞きたかった。
「そうだねぇ。でも、本人から聞かなくちゃ、
ホントの事なんてわからないよ。
私は宇髄さんが、不誠実な人とは思えないんだ」
「…」
それは、そうだ。
「そうだ睦ちゃん!」
おばちゃんは私の肩をつかんで引き離すと、
私の顔を覗き込む。
「お出かけしといでよ、
とびっきりおしゃれしてさ」
「えぇ…?そんな気分じゃないよ…」
「こんなとこにいるから気分も沈むんだよ!
可愛いカッコして、外に出てごらん?
きっと気分も晴れるから」
「…うーん…」
「ホラおいで!私の若い頃の着物、
まだまだ置いてあるから!」
まったく気の乗らない私は、
おばちゃんにズルズル引きずられ
いつかのように着替えをさせられる。
おばちゃんに教わりながら、お化粧もしていった。
この間はおばちゃんが全部してくれたから、
自分でするのは初めてだけど…
お化粧って楽しい!
自分が、違う人になっていくみたいで…
もうそれだけで気分が晴れる。
私のお店に来てくれるお客さんたちも、
こういう気分の為に、買っていってくれるんだなぁ。
「まぁ素敵!うちの娘は何て可愛いのかしらっ」
姿見にうつった私を見て、
おどけたように言うおばちゃん。
「あら、これも私を育ててくれた
おじちゃんとおばちゃんのおかげだわっ」
だから私も同じように返してみる。
おばちゃんは満足そうに笑った。
「お、睦ちゃん、
またきれいになったなー。今日はどちらへ?」
お店にいたおじちゃんが褒めてくれる。