第39章 輪廻〜if
あんなのいらないよ。
先生にもらったのがあれば
充分腹は満たされるんだから。
でも、差し出されたそれには、
あたたかい何かが入っているような気がした。
誰かと分け合ったというだけなのに…
それが、購買で買った、
たかが120円のパン。
されど、だ。
私にとっては大きな事。
半分こ、って愛情だと思うから。
先生は何気なくしてるってわかってる。
なんなら、何も考えていないよね。
だけどさ愛なんてもの、
貰ったことのない私には
とっても大きな事なんだよ。
「ん?ほら」
いつまでも受け取らない私の方に
更に腕を伸ばしてパン入りの袋を寄越す。
私は背を反らし、
出来る限り遠い場所からそれを受け取った。
「…この俺様をバイ菌扱いか」
違う。
誰が相手でも近づきたくないだけだ。
昨日みたいに、何かに気づかれたらたまらない。
ちなみに私は今日もマスク。
腫れはだいぶ良くなったけれど、
青く変色した肌はすぐには治らない。
「まぁいいけど。
早く食えよー?昼休み終わるぞ」
「……」
確かに。それじゃ、と会釈をして踵を返した。
途端に
「だからー。ここで食えよ。
わざわざ俺が来たってのに
何ですぐに消えようとするかなお前は」
がっくりと肩を落とす。
「……」
「別に顔見てやろうなんて思ってねぇよ」
「………」
ジロリと睨みつけてやると、
「…何だよ」
不満そうに眉を寄せた。
「またマスク取り上げるつもり」
昨日は結局、マスクは戻らなかった。
そのまま…。
いろんな人の好奇の目に曝された。
ほっぺたに湿布貼った女が
そのへんを彷徨いていたら
そりゃ見たくもなるよね。
「わざとじゃねぇんだって。
悪かったよ。お前が帰った後、
床に落っこちてんの見つけてさ」
頬を人差し指で掻きながら
宇髄先生はもごもごと言い訳。
…この人でもこんな仕種するんだ。
珍しい動物でも見つけた気分。
「別にいいし。どうせ使い捨てだし」
使い捨て…
どうせ、使い捨て…
自分で言った言葉に傷ついて。
傷ついて。
私みたいだ……
「おい、櫻井…?」