第39章 輪廻〜if
それをチラリと見て
「いらね。お前食えんだろ?
ならちゃんと食わなきゃダメだ」
急に先生みたいな事を言う。
「これ当てにして来たんでしょ。
私もうもらったからいい」
そう言ってパンの袋を
先生のお腹の辺りに押し付け手を離した。
落っこちないように咄嗟に片手で受ける先生。
それを横目で確認しつつ、
もらったパニーニが落ちないように
白い紙で上手に包む。
「櫻井、どこ行く」
立ち上がった私に、先生が声をかけた。
「別に」
答える気はない。
一緒にいる気もない。
「ここで食うんじゃねぇのかよ」
別に場所なんかどこでもいいのだ。
誰にも会わずに済むのなら。
先生を無視して歩き出した私の背中に
「話あるから、ちょっと戻れ」
諦めたような声が届いた。
遠回しに言ったのでは
効果はないと判断したらしい。
「話なんかない」
「あ″ー、じゃあねぇからここ座っとけ!」
「話がないなら別に居なくていいでしょ」
「いーいから!ちょい!」
大きな声に仕方なく振り返った。
すると顎で『戻れ』と示され
トトッとベンチを叩かれる。
そこへ座れと。
「…ンな顔する事あるかよ。
俺なんも悪ィ事してねぇだろ?」
悪い事…?
考え込んでしまった私を見て、
「俺、櫻井が逃げるような何かした?」
宇髄先生はわかりやすく言い直した。
私はさぁ?と首を傾げる。
多分されてない。
でも、昨日なんだか気分が悪かった。
「こらこら、行くなっての。
いいから座れ。コレも半分にしてやるから」
パンの袋がバリっと開いた音。
パンひとつで私がつられると思っている。
そうじゃないよ、わかってないな。
パンだろうがなんだろうが、
『半分こ』をすることが
私を嬉しくさせるんだよ。
我ながら子どもみたいで笑える。
先生は開いた袋の口から
パンを半分出して
パカっと綺麗に割ってみせた。
…手が大きいからなのかな。
あんなに綺麗に割れるのは。
「ん」
袋に入っている方…
つまり、直接手で触れていない方を
私に差し出してくれた。
…気遣い満点かよ。