第39章 輪廻〜if
無言のまま鞄を掴んで
ドアへと向かう私の行く手を、
先生はまた阻んだ。
「…食いたくねぇモンは残したろ」
帰りたくない所には帰らなくていいって事?
案外バカな事を言うんだな。
じゃ私はホームレスかよ。
「どいて」
「お前さっきから
俺に向かってすげぇ偉そうだな。
これでも一応教師ですけど?」
一応って…。
自覚あるんだ。
「教師が何してくれんの?」
「出来ることしてやるよ」
「ご大層な授業だけでしょ」
面倒ごとはごめんだもんね?
「どうかね。試しにオネガイしてみれば?」
「嫌だ。大人なんか大嫌いだ」
「………」
私の言葉はストレートに
先生の胸に突き刺さったらしい。
口をへの字に曲げて目を見開いた先生。
とりつく島もない、と思ったのか、
「…わかった」
先生はその大きな体をどかして
ドアまでの道を開けてくれた。
私はひらけた道をまっすぐに進む。
さぁ、地獄の時間だ。
いつものように家までの道をまっすぐ進み、
覚悟を決めて鍵を開けた。
でもそこはガランとしていて
私は拍子抜けした。
誰もいないリビングはウソのように穏やかで
大っ嫌いなこの場所が
廃れて色鮮やかに見えるほどだ。
ざまぁみろと、
そんな気持ちになった。
でも…
取り残されたようになる私は、
もう病気なんじゃないかと恐ろしくなる。
怖い。
あんな事をされても、
それに縋るしかないのかな。
もう私は、
きっと戻れないんだ。
酷い目に遭って…
それが日常になって、
嫌なのに、
嫌でしょうがないのに…
なんでこんな気持ちになるんだろう。
ねぇ、
お母さん……
「これやるー」
「いらない」
昨日のことがあったから
あの特等席(?)は遠慮して、
わざわざ裏庭の木々が鬱蒼と生い茂る
秘密基地みたいな場所を選んだというのに。
「即答すんなよ」
かくっと首を落として、
ついでにほかほかのパニーニを差し出していた手もダランと下ろした。
「焼き立て!ベーコンとチーズだぞ?
間違いねぇヤツだろ?」
めげずにもう1度、それを私に差し出して来る。