第8章 続
障子の向こう側、
おばちゃんはそこから私の様子を窺っていた。
「…睦ちゃん?大丈夫かい?」
「…ごめんなさい。少し、気分が悪い…」
何とか、それだけ伝えた。
「…そう。じゃ今日の所は帰ってもらうかね」
おばちゃんは独り言のように呟いて、
静かに下へ下りていった。
…逃げてしまった。
こんな、中途半端なままいるのなんかイヤなのに。
この不安も、よくわからない状況も解決したい…
大丈夫って、言ってもらいたいのに…。
次の日も、その次の日も、宇髄さんはやって来た。
でも私は、会わなかった。
会う、勇気がない。
話しをする心構えができない。
あの時の怒りも、まだ消えずに燻っている。
体力はすっかり戻ったけれど、
私の心は暗く淀んでいた。
その日のお昼過ぎ、
部屋で窓辺に座り、
商店街の流れを眺めていた私の所に
おばちゃんが顔を出した。
「睦ちゃん、ちょっといい?」
「うん…なぁに?」
そろそろ来ると思ってた。
…。
おばちゃんは
私のそばにあるもう1つのイスに座った。
「睦ちゃん、体調はどう?
ごはんも食べられるようになったし、
体力も戻った頃かしら」
おばちゃんは穏やかに言う。
「うん。おばちゃんたちのおかげで大分いい」
私も努めて、笑顔を作る。
「そう。それは良かった」
おばちゃんは私の頭を撫でてくれた。
「それでねぇ…」
「…うん」
「私が
口を挟む事じゃないのはわかってるんだけどねぇ」
「うん…」
「毎日、来てくれるわよね?その…宇髄さん…」
「…そう、だね」
「おばちゃん、もう断るのちょっとツラいわ?」
「…ごめんなさい…」
私は、下を向いてしまう。
そんな私を見て、困ったように笑うと、
「何か、あったってことでしょう?
じゃあそれを、解決しなくちゃね」
言葉を選んで、優しく言った。
「おばちゃん、
宇髄さんね、お嫁さんがいるんだって」
「…え?」
「しかも2人も」
「えぇ⁉︎」
「そう、思うでしょ?」
「2人はありえないでしょう…」
「うん…でも…」
「宇髄さん本人が、直接そう言ったの?」
「…違う」
私の返事に、幾分ホッとしたような顔をする。