第39章 輪廻〜if
「返したら帰るんなら返さねぇ」
「……なに?」
「ははっ」
自分でも何を言っているのか
よくわからなくなったのか、
軽く笑った宇髄先生は
「俺が手当てしてやったんだけど」
やっとこっちを見て
私の頬と腕を指差した。
手当てしてヤッタとは…。
まぁ上からな物言いだ。
「私はマスクしてた。
ブラウスの袖も下ろしてた。
って事は、どういう事かわかる?
隠してたんだ。見られたくなかった。
それを勝手に見られて、私は怒ってるし悲しい」
ありがた迷惑だという事をはっきりと伝えると
先生は少し考えた後に
「そうか…。悪かった」
真っ直ぐに私の目を見て謝ったのだ。
……
私に謝る大人なんて初めてだった。
「あ、謝ってほしいんじゃない!
マスク返してよ!」
動揺も動悸も激しくて、
私はつい、声を荒げてしまう。
何だこの人。
ヘンなヤツ。
「あー…お前のマスク…どこやったかな」
私とは裏腹に落ち着き払った先生。
それもまた悔しくて…。
「はぁ⁉︎返してよ!」
「まぁそんな怒んなよ」
へらへらわらう先生は、
「あ、ほら次の授業あるからよ、
櫻井はここでちっと待ってろよ。
終わったらちゃんと探すからな」
さも簡単そうに言った。
「何でここなわけ⁉︎」
「保健室の方が良かったかよ?」
「別にどこでも一緒だよ!」
「じゃあソレ、説明つくんだな…?」
指差したのはやっぱり、頬と腕…。
…そうか。
これでも気を遣ってくれたんだ。
養護教諭にこのケガが知れたら
それこそ全部聞き出されたり
家に連絡が行ったりするんだろう…。
「…なんで、」
「んぁ?」
「何でわかったの」
隠してたはずのケガ。
あんな一瞬で見抜くなんて
ほぼ不可能だと思うんだ。
「喉が痛ぇ割には綺麗な声してた。
うまく隠したつもりかもしれねぇが
どう見たって左右非対称だ。
明らかに左の頬が膨れてる。
気づかねぇ方がおかしいよ。
それから、…」
先生は言いにくそうに言葉を途切らせ
「…口ん中切れてるだろ。
庇ってるような妙な話し方してる。
それから…その腕な、」