第39章 輪廻〜if
たくさんのこの気配はきっと、
美術室で授業を受けている人たちのものだ。
午後の授業、サボっちゃった。
…さっきだ。眩暈がして、倒れた?
それでここまで運ばれた。
…くそぅ。
何で私が。
ゆっくりと起き上がり
もう眩暈がしない事を確認する。
視界が歪むあの感じを想像したけれど
もうすっかり大丈夫のようだった。
この部屋に不釣り合いなくらい豪華で
大きなソファからゆっくり立ち上がる。
はぁ、と大きなため息と共に
出口に向かって歩き出した。
「い…っ!」
戸が開く前提で引手に手をかけ
普通に引いたのに、
鍵がかかっていたようで
私の手だけが空振りをした。
おかげさまでツメが欠けた…
もう何なの…!
ふと見上げると、
私の手が届かない高い位置…
戸と縦枠に渡って南京錠が掛けてある。
あんな物ついてる教室見たことない!
絶対後付けじゃん。
誰かが勝手につけたよね。
…誰かがねぇ。
あんなの、どれだけ頑張ったって
鍵がなきゃ開かない。
私は仕方なく、
さっきのソファまで戻り
ボスっと身体を投げ出した。
美術室と繋がっているドアからなら
簡単に出られるだろう。
でも今は授業中。
準備室からいきなり姿を現したりしたら
あいつは誰だ
何をしてたんだと注目の的になってしまう。
考えただけで恐ろしい。
…あれ?マスクがない!
呼吸がしやすかった事にようやく気がつき
咄嗟に口元に手をやって…
左頬に貼ってあるものに指先が触れる。
そのまま頬を撫でた。
湿布?
それか、冷却シート的な…
昨日の男に殴られた頬。
大きく腫れ上がって、
朝になってもちっともひかなかった。
変色もひどかったし口の中は切れていた。
それを隠すためのマスクだったのに。
…何で勝手に外したりするんだ。
これみよがしに手当てなんてしやがって。
しかも腕にも同じ湿布が貼ってある。
ブラウスの袖はきっちり下ろしてあるけど
その下に貼られている感触が…。
これを見られたのかと思うと
怒りと恐怖が入り混じったかのような
不確かな感情が渦巻いた。
こんな所に閉じ込められて
1人不安を抱えたまま過ごす時間は、
ここが自分の安息の場だという事を忘れさせる。
ペンキの缶を再利用している
筆立てが並んだ机の上に、
私のスマホが置いてあった。