第38章 金魚の昼寝
仕方なく彼の肩に掴まって
行く先を凝視め…
私の部屋?
天元の部屋を出て、
すぐ隣の襖へと向かうのを見て、
私は彼を見下ろした。
…この人を見下ろすの、貴重な体験…
私の視線を受けた天元は
顔ごと私を見上げてから
いつものようにニカっと笑う。
…何を企んでいるのだろう。
こんな顔をして笑う時は
私を驚かそうとしている時。
もしくは何か、悪戯を仕掛ける時だ。
もったいぶった素振りで襖を開けた。
開けた視界。
ひと通り見渡してみるけれど、
そこはいつもと変わらぬ私の部屋……
一周まわって、
天元の元に戻ってきた私に目を見張り、
「あれー?気づかねぇでやんの」
ぷっと可笑しそうに吹き出した。
何か違ったかともう1度部屋に目を移すと、
「…あ…!」
床の間に、見慣れないもの…
彼の肩に掴まっていた手につい力が入る。
「ねぇ!あれ…!」
「あぁ、気に入ったろ?」
「見たい‼︎」
私はつい気持ちと共に
体が前のめりになってしまい、
「おい!落ちる!」
天元を慌てさせてしまった。
でも、だってあれは、
あのまぁるいガラスの入れ物はさ、
「金魚でしょ⁉︎」
「そうそう、大正解」
「すごい…可愛い!」
金魚鉢の置かれた目の前に下ろしてもらい
私はそこに座り込む。
神聖なものを前にしたように、
きっちり正座をして。
真っ赤な琉金。
「天元!」
「んー?」
「可愛い!」
「おぉ」
「しっぽひらひら!」
「あぁ、そうだなぁ」
「真っ赤っか」
「…そだな」
「泳いでるよ!」
「魚だからな」
「可愛いのー、」
「お前もな」
「ずっと見てられる…」
「俺もー」
「金魚だよ!」
「睦も金魚みてぇだろ、
珍しく今日の浴衣紅色だしな」
…すぐ話をすり替える。
私は気を取り直して
金魚鉢を覗き込んだ。
「なんて可愛いの…」
「ほんと可愛いな」
………
「こんなふうに泳げたら
気持ちいいだろうなぁ」
「泳げなくてもお前は気持ちいいけどな」
……………
「涼しげだねぇ」
「さっきと違って
睦も涼しくなったなぁ」