第38章 金魚の昼寝
「ぅん」
「どこらへんが悔しいんだ?」
えー…それ言わせるの?
「……わ、たしだけ、好き、みたいで…」
私の放ったひと言は、
天元のおでこの辺りにサクっと突き刺さったようで
自分の肘枕から頭をカクンと落とした。
「どうやったら、お前だけ好きなように見えんの?
どう考えても俺の方が睦に惚れてんだろ」
……
うそばっかり。
「…お前今、絶対ぇウソだと思ったな」
どんな耳してるの⁉︎
心の声が聞こえるわけ⁉︎
怖すぎる…!
「睦の気持ちは目でも見えんだよ」
「目……」
ハッとした私は
両手で顔を押さえる。
顔か!顔に出てるのか…
でもそんなの、いつものことかぁ……
天元は、そのとおり、と笑って
私に口づけをした。
「声、戻らねぇなぁ。茶でも淹れるか」
私を気遣ってくれてとってもありがたい。
だけど、私は首を横に振った。
「なんかいらねぇの?のど乾いてるだろ」
いらない、の返事の代わりに
私は彼にぎゅうっと抱きついた。
「おやおや、可愛いのね睦ちゃん?」
乱れた浴衣も、綺麗に直してくれてあって
いつのまにか傾き始めたお日様は
さっきよりも随分と柔らかくなっている。
夕方を思わせる風は涼しいし
くっついても全然いやじゃない…
「そうだ。睦が目ぇ覚ましたら
見せたいものがあったんだ。
…身体、動かせるか?」
さっき脚が閉じられないと泣いたからかな?
随分と慎重に訊いてくれる。
それが嬉しくて
笑みを深めた私を見て
身体が動かせるものだと判断した天元は、
軽やかに身を起こした。
「じゃあおいで。こっち」
嬉しそうな笑顔を見て、
さっき私の名前を大声で呼びながら
帰ってきた事を思い出した。
畳に手をついて
やっとこ起きあがろうとする私に
スルリと腕を絡めて引き起こしてくれる。
そのまま片腕に抱えて簡単に立ち上がった。
「まって…!、こまで…なくても!」
「何言ってるかわかんね。
この方が早ぇだろ?待ちきれねぇんだ」
いくぞ、と
私の意見などまるで無視して
天元は襖の向こうへと颯爽と歩き出す。