第38章 金魚の昼寝
この、何かの中を漂うような
ふわふわしている感覚はなんだろう…
確か私は、
部屋の中だったはずで…
愛しい天元と一緒に、
……
彼の腕の中に、居たはずだったのに…。
無辺世界だ。
なにもない。
ただとっても、心地いい。
あったかいような…
安心するような…
そこにずっと居たいような気になった。
透き通る視界。
ぽくっと浮き上がっていく気泡を見て
ここが水の中なんだという事を知る。
水の、中…なのに、
全然苦しくないなんて、
あぁこれは…
もしかしたら夢なのかな…
だからかなぁ?
ひんやりしていて気持ちいいのは…
私が思った通りの、
水の中をひらひら泳ぐ夢。
全身を包まれてとってもいい気持ち。
なのに、
全身がびりびりと痺れるみたい。
それなのにすごく穏やかで心地いい…
ただこうやって、
漂っていたいのに…
ぷかぷかと身を任せていたいのに
何かが強く、私を呼び起こそうとする。
嵐が来たかのように強く揺さぶられて
そんなにされたらこの渦の中に
飲み込まれてしまいそうだよ…
それはちょっと怖いな…
こうやって静かに泳いでいるのがちょうどいい。
水に触れている肌は冷たくて気持ちいいのに、
内側は熱が湧きあがってくるみたいに熱い。
熱くて、熱いのに気持ちいい…
私、どうしちゃったのかな…
不思議な夢…
ふぅっと意識が浮上して
自分が目を閉じている事に気がついた。
ぱちりと瞼を開けると
視界いっぱいに、彼の顔。
しかも綺麗な目がジッとこちらを見ていて…
「…もう起きねぇかと思った」
そう言いながら
私のおでこに唇を押し付けた。
つい、ごめんなさいと謝ってしまいそうな程
切なげに言われたその台詞だけれど…
「…っと、…てたの?」
普通に喋ったつもりが
掠れてしまってうまく声が出せなかった。
「……んー?」
天元は何故だか嬉しそうに目を細め
今度はほっぺたに口づけをする。
「ず、っと、見て、た?」
ゆっくり話せばなんとか声は出た。
「あぁ、ずっと見てた。可愛い寝顔」