第38章 金魚の昼寝
「…それ、いつも当たり前みたいにするけど」
「…やだったか」
引っこめようとする天元の手をハッシと掴み
「ちがうー…やめたらいや」
自分の髪の上に戻す。
「なんだ、いい方か」
小さな微笑みと共に優しく言った。
「うん。すごく心地いいんだ」
「そりゃよかった。
俺もこうしてんの好きだ」
私からの許しを得たとばかり
何度もよしよししてくれる。
「なぁ、日は避けてやるからここ開けたらどうだ。
少しは風も通るだろ」
天元の提案に
ふと考えを巡らせた。
確かに、一理ある…
「でもそれじゃ、天元が干からびちゃう」
「ンなワケあるか」
天元は余裕の微笑みで
くくっと喉を鳴らした。
「あー、笑うの?だって直射日光だよ、」
「昼間だぞ。お天道様は真上にいる。
ここには立派な屋根もある。
直射日光なんか当たらねぇよ」
「そうかなぁ。
じゃあどうしてこんなに暑いのー?」
「だから、風が通らねぇからだって」
そうして天元は、勝手に障子を開け放った。
「あーホラ。いい風が入るじゃねぇか」
目を閉じて心地良さそうに大きく息をはく。
ふと見ると、彼の言った通り、
日に照らされているのは
縁側のほんの先の方だけで
天元はちっとも日に晒されてはいなかった。
…そうなるとだ。
「…あつい」
「んー?」
「今日暑い…」
「………」
天元、気付く。
彼が、日除けではなく、風除けになっている事に。
だって、
「はは!裏目に出たなぁ。悪ィ悪ィ」
さほど悪びれた様子もなく
ごろりと仰向けになった天元は
その上に私を引き上げてくれた。
再び私の目を突き刺す光。
それと同時に吹き付ける風が
私の汗を優しく引かせていった。
首元から吹き込む風は涼しくて
はだけた襟、覗く彼の硬い胸元に頬を落とし
光が乱反射する庭に目を細めた。
すると驚いて天元が頭をもたげ、
私の頭と顔にそれぞれ触れる。
「お前あっつ!大丈夫なのか?」
「ん…。天元冷たいねぇ」
この暑いのに何でこんなにひんやりしてるんだろ。
特に汗ばんでいるわけでもなく、
さらさらで気持ちいい肌触りに
何度もほっぺたを擦り付けてしまう。