第38章 金魚の昼寝
暑い。
なつの暑さは、私の体力を奪う。
ジトっとした空気は私の汗を抑え込み、
熱の放射を妨げるんだ。
こんな日は金魚になりたい。
冷えた水の中を、ひらひらと泳いでいたい。
「睦!睦‼︎」
暑さをやり過ごすため、
お昼寝をしようと決め込んでいた私の耳に
廊下の奥から響く大きな声が届いた。
あぁ…休ませて…。
せめて夢の中で金魚になりたいのに…
スッと開いた襖の向こう。
「睦…」
まだ廊下に立っているはずの天元は
珍しく横になっている私を見て
くっと息を詰めた。
「おい…!」
「倒れてないから!お昼寝だから!」
「あぁ…そうか」
全身でホッと息をついた天元が
こちらに足を運び
私のそばにゆっくりと腰を下ろした。
真昼の部屋は障子を閉めていても眩しくて
私の目を思い切り刺激する。
閉じた瞼を突き破って光の矢は突き刺さり
視界が赤く見えるのだ。
恐ろしい限りだ…
「……」
しばらく黙って私を見下ろしていただろう天元は
ススっと障子側に回り込み
私にぴったり身体を添わせた。
肘枕をして、空いた片腕で私の腰を引き寄せる。
瞑っていた目をパチっと開き、
彼がそうした理由を知った。
「…眩しくねぇだろ?」
そう。眩しくないの。
天元の大きな身体が盾になっているから。
相変わらず、なんて気の回る人なのかしら。
感心と共に感謝致します。
それにしても…
「…そんなに眩しそうにしてた?」
「してた」
そうだよね。
「休んでいいぞ。居てやるから」
居てくれるんだ。
でも…
隣にいてくれるのは嬉しくて、
自ら日除けになってくれるのもありがたい。
だけどこうして、
そばにいてくれると胸の奥の方から
愛しさが湧き上がって来て
きっと眠るどころじゃなくなってしまうのだけど…
あれ。
「そういえば何か、話があった?」
そんな感じで飛び込んで来たよね?
そう思って訊いたのに
「あぁ、後でいい」
当の天元はしれっとしていて
さっきの勢いは見事に削がれてしまっていた。
先にちょっと寝ろと、
私の髪を撫でる手が言っている。