第37章 初恋
「なぁ」
声をかけると
びくっと肩を竦ませて
「はいっ」
目をまん丸にしてこちらを見上げる。
「…大丈夫か」
そんな事を訊くつもりはなかったのに
ついそんな言葉が口をついてしまった。
「大丈夫です!」
…なにが?
なにが大丈夫なの?
そう問いたくなるくらいのオウム返しだ。
「ならいい…」
と、
言うしかない状況。
「どこ行くか知ってるか?」
「えぇ…っ…あ、甘味…?」
あ、わかってた。
そう、本日の目的としては
睦の好きな甘味を食いに行く事だ。
初めての『でぇと』としては
上出来だろう?
好きなものを食べられて
しかも一緒にもいられて、
多少の緊張を残しつつ
2人の距離も縮まるワケだ。
我ながらいい提案をした。
その話を持ちかけた際、
最初こそ戸惑っていた睦も、
やはりというべきか、完璧に甘味になびいた。
理由はどうあれ、
うまく釣られてくれて俺は大満足だ。
「…随分と遠くまで行くんですね…?」
「あぁ、知ってる顔に出会っちまったら
シラけるからな…」
「…?」
俺の言った事の意味を
睦はまったくわかっていない。
わかれよ。
だってここで、もし甘露寺に会ったら
お前は絶対ェに
『今から宇髄さんと甘味を食べに行くの!
蜜璃ちゃんもどう?』
そうやって誘うに決まってる。
なんも考えずにだ。
あぁ、そりゃあもう見事に目に浮かぶ。
甘露寺だけじゃねぇ。
他のヤツら相手でも
睦は似たような事を言うんだろう。
…絶対ぇにゴメンだ。
せっかくの初でぇと。
2人きりでないと意味がねぇ。
誰にも邪魔なんかさせねぇんだよ。
互いの袖口に手を突っ込んで
腕組みをしながらゆっくり歩く俺よりも
半歩分遅れて歩く睦。
ちょっと俯きがちで、
可愛い唇をきゅっと一文字に引き結び
狭い歩幅でちょこちょこ歩いている姿は
間違いなく神経を尖らせていた。
ちょっと可哀想なくらいに緊張している。
でもこれ、
俺だからここまでなんだよな?
…と思うとやっぱり可愛い。
ずっと眺めていたい所だが…