第37章 初恋
先だって
自らお手本を見せてくれたとしか思えない
今の発言。
驚いた私の顔を見て、
くすりと笑った宇髄さんは
「俺なーんでもわかってるだろ?」
柔らかい眼差しを向ける。
ちょっと自慢げなその言い方が少年のようで
昔の姿と重なった。
それがとっても愛しくて
私の中に
新しい感情が生まれたみたいな気がした。
「ほんと。
私の事…私よりわかっていそう…」
「それは、どうだろうな?
ほんとはわかってるんだろ?
自分がどうしたいか。
なんで、そうできないのかも、
ちゃんとわかってるはずだ」
「……」
「さすがに俺でも、その理由までは
聞かねぇとわからねぇからな…」
宇髄さんにもわからない
ちゃんと言いたいのに、
言えない理由…
「…私は、言ったらいけないんだよ。
私が言いたいこと言ったらいけないの」
「あー……そうか…」
察しのいい宇髄さん。
たったのそれだけで
全部理解してくれて
困ったように頭を掻いた。
「じゃあな…?ソレ、今から変えようぜ」
少し言いにくそうな口調。
どうしたらいいか、
少し悩んでいるようにも見えた。
「…変える?」
「俺には、何でも言ってみるんだよ。
とりあえず何でも……どんなに小さくても、
くだらないと思ったことでも
俺には言わなきゃならねぇの」
「言っちゃダメじゃなくて、
言わなきゃダメなの?」
「難しいか?」
「…うん。難しい」
ずっとずっと強いられて来た事を
突然覆すなんて容易じゃない。
だって自分の話なんかした日には、
それはもう酷い目にあった。
その記憶は私の深いところに根を張って
未だに私を苦しめる。
「そうだな。すぐには出来なくて当然だ。
でも、俺は睦の事なら何でも知りたいから
俺のために頑張ってくれると嬉しいんだけど?」
その囁きを、私のおでこにうずめて
そのままぎゅっと抱きしめてくれた。
相変わらず安心する。
「…ん、がんばるね、」
目の前の広い胸に
自分からも擦り寄ってみる。
すると
ん?と覗き込まれて
「…眠たい?」
小さく笑われてしまった。
…私が眠いと、おもしろいかな?