第37章 初恋
そのケガを見た途端に
ぽろっと涙が溢れそうになったけれど
それを必死に堪えて手当をした。
腕を抉るようなキズ。
見ているだけで痛かった。
何をして来たのかなんて訊かなくてもわかる。
それがわかっているから、
こんなケガしないで、なんて言えないんだ。
誰のために、
ここまでしているのかが
わかっているから。
優しい口づけは
少しずつ深まっていく。
私がそれを許すのか探りながら…。
どこまで許されるかを量る様に…。
「ん…ふ、」
唇を優しく食んで
強く舌を吸われ、
今度は押し入って来た舌に
口内を舐められる…
それについていくのに私は必死。
鼻でしかできない呼吸も
すぐに苦しくなって
彼を押しやりたくなるけれど…
離れたいわけじゃないの。
そうしたくらいでは
離れていかないってわかってるけど。
でも、嫌がっているって
勘違いされたくない…
「睦…甘くて、いい香り…」
膝の上でくるりと身体を返されて
背中側から抱きしめられると
結い上げた髪のせいで剥き出しの頸に
宇髄さんは鼻先を押し付けた。
何をされたか一瞬で理解した私は
肩をびくりと竦ませて
「やぁ…っ!」
前傾して逃げる。
でも片腕でお腹を抱えられていて
離れる事はできなかった。
おかげで背中にピッタリ張り付いて
押さえつけられた体勢になる。
「睦…帯、可愛い結び方してるな…」
「え…、…ん、そう、かな…」
確かに。
今日は蝶文庫にしたよ。
特別、綺麗な着物でも無いけれど
べつにいいんじゃないかなって…
可愛くしたい気分だったから。
でも、今そんな事…言う…?
毒気を抜かれた、ではないが、
雰囲気をぶち壊すには充分な彼の言葉…
何となく逃れられる様な気がして
畳に手を突いて振り返ろうとした途端、
「…ほどくけどな」
しゅるっと衣擦れの音がして
一気に帯が緩められた。
不意打ち、というやつだ。
「や、だ!意地悪!」
「やめるワケねぇだろ…まだまだだな睦」
「何それ、何のためよ…!」
「好きな女を啼かせたいのよ」
「あ…!」
緩んだ帯のせいで簡単に開いていく着物。