第37章 初恋
「やぁだあ!ばかっ」
顔を真っ赤にして
思い切り背を反らして逃げた。
「あ!何だよ、この俺様から逃げるとか!」
「恥ずかしいから、しないで!」
「…する」
「えぇ…?」
「する。最後まで。…いやか?」
腰は抱きしめたまま、
互いの胸は離れてしまった体制で
睦はピクリとも動かなくなった。
イヤかイヤじゃないか。
それを考えてはいるのだろうが、
どうにも答えは出ない様子。
やめて欲しいが、やめたくないって?
いやだけど、いやじゃない?
その表情から、その想いが伝わってくる。
「きれいにした状態で抱かれたい?
でも、どっちかっていうと
そうじゃない時の方が俺は好き。
だって、ホントの睦の味だろ?」
なぁんて事を言えば、
「…なに…?
あ、あああぁあ頭おかしいんじゃないの⁉︎」
と、言われる事は目に見えていた。
幾度となく言われて来たこの台詞。
そうです。
俺は、こと、睦に関しては
おかしいのです。
「おかしいんだよ。
いつも言ってんだろ、狂ってんの。
俺はそれでいいんだ。もう観念すれば?
風呂なら後で一緒に入ってやるから」
「いっ、しょに…なんか…!」
「入りたいだろー?睦の事だ、
どうせ湯、はってあるんだよな?
ここの湯船、ちっと狭いが
一緒に入れない事もねぇだろ」
「何を勝手なこと言ってるの!」
「いやーむしろ狭い方が
くっつけるからいいかもなー」
「宇髄さん!聞いてますか?」
「聞いてません」
「ちょ…っ」
先に風呂に入りたい睦と
後で一緒に入りたい俺との攻防は
どう考えても俺の勝ち。
力と愛の大きさで、
俺に敵うはずがないのだから。
綺麗なのと汚いのと、どっちがいい?
って訊かれたら
…綺麗なのって答えるでしょう?
そうだよ、綺麗がいいに決まってる。
それなのに、違う人が目の前にいた。
絶対におかしいよ。
だいたい私がどれだけの労力をつぎこんで
あのお湯を沸かしたと思ってるの!
少しぬるめに入りたかったから
冷ましていた所に
大怪我をした愛しい人が現れた。