第37章 初恋
「…ごめんな、ンな事させて」
何となくそう告げると
ピクリと肩を震わせて
「ん…ごめんなさい…」
同じように謝った。
…?
「何が…」
「可愛くない言い方して…
ごめんなさい、ちょっと…びっくりして、」
「あぁ、だから悪かったって…
やめよ…謝罪大会じゃねぇんだからさ」
「ふふ…そうですね…」
空気のように笑ったそれは
泣いた様子ではなくて
俺はこっそりホッとした。
俺がケガをしたら
あんなふうに取り乱して涙まで浮かべるくせに
何があったのかとか、
もうケガするなとか
こいつは絶対ぇに言わない。
かえってそれが、切ないよ。
「元気そうだな…」
「元気ですよ。
宇髄さんいつ来るかわからないからね。
いつでも元気にしてないと…」
「俺のため?」
「だって、たまにしか会えないのに
元気じゃなかったらもったいないです。
それに、私が泣いてる所なんて…
見たくないでしょ」
戯けたように笑ったが、
睦の本心を見たような気がした。
…
「…俺の居ない時、泣いてんの…?」
そう言われたような気がして
ふと問いかけてみる。
もし『そうだよ』なんて返事されたら
耐えられねぇし
この先どうすりゃいいかわらねぇのに
よくもまぁそんな事を訊いたモンだ。
しばらく黙っていた睦は
ふっと吐息で笑って
「そんなわけありませんよ」
額を俺の肩に擦り付ける。
…
ウソなのかホントなのか、
…珍しく上手く隠しやがる。
いつもだったら、すぐに
見抜けるのに。
それが、俺の
睦への愛が薄れた様に感じて
自分の事がすごく嫌になった。
「っ…宇髄さん…苦しいです」
そんな思いから
強く抱きしめてしまっていた事に、
睦の呻きで気が付く。
「…すっげぇ好きなのになー…」
「…私も『すっげぇ好き』ですよ」
「はは…っ、そりゃ嬉しいな」
「宇髄さんも笑ってるのがいいです」
……
「おー…俺笑ってなかった?」
「はい。こわーいカオでした。こーんな」
言いながら思いっきり眉間にシワを寄せて
俺に見せた。
「俺そんな可愛いカオしてたかよー」
「可愛くないです。こわーいの」