第37章 初恋
「ぷ…どうぞてお前…」
「だって急にそんなこと訊くから…!」
「可愛いの」
睦は照れて
身を縮こませて、余計に可愛くなっていく。
「何でさっき、脚隠した?」
「えっ?…隠すでしょ、出てたら」
「俺にはいいだろ」
「天元だからダメなんだよ」
「全部知ってんのに?」
「すぐそっそういうこと言うからだよ!」
胸に手をついて
少し離れた睦を掬い上げるように
抱き直して
「だって可愛いし。
睦だったら、こんなモン
着てなくてもいいくらいなのに」
着物の襟元をくいくいと引っ張ると
「またばかなこと言って…」
呆れたように言い放ち、
それでも俺の首に抱きついてくれる。
あぁ、このぴったりはまる感じ…。
心地よくて、もう離せない。
「弥生が羨ましい?」
「えぇ?」
「そんな言い方だった」
「あー…ううん。
悪い事ばっかりじゃなかったよ…」
ぽつりと小さな呟きが耳に届いた。
「何の事だ」
何かを懐かしむような物言いにひっかかる。
それを察してか、
睦は優しく笑った。
「天元が来てくれるのを待ってる時間の事。
淋しくて会いたかったけど、
おりこうに我慢してた分
会えた時嬉しかったもん」
「くくっ…おりこうに?」
「ふふ…そう、おりこうさんだったでしょ?」
「あぁ、そうだな」
「さっきの弥生を見て、
自分は淋しい恋してたなーって思ったけど
全然そんな事なかった」
あぁ、…
「そうだな、淋しかったよな…」
「うん。でも、今考えると
淋しかったのも良かったなって
思えるよ」
「もう離れないから許してくれな」
きゅっと抱きこんでやると
ふうっと力を抜いて
「許すとかじゃなくて、
大丈夫なんだってば…」
くすくす笑った。
笑ってはいるが、
その時はツラかったろうな…
俺は俺で、ツラかったから。
朝は休息。
遅めの朝食と
軽く肩慣らし。
昼は始動。
準備を進めて
任務の心構え。
本当なら、この時間に
会いに行きたい女がいる。
仕事中だから店に行く事になるが。
でも今あいつんとこ行くと、
もう他になにもしたくなくなるから
行かない。
行けない、の方が正しい。