第37章 初恋
俺の胸に顔を押し付けられていながら、
どこか違和感を覚えたのか
手探りで裾を掴み
そのうちに脚を隠した。
こいつこそ、
何度しても慣れなくて…
もうどこも隠す必要がないくらい
見られているというのに、
すぐに恥じらって逃げる。
そこがまた可愛いけど…。
「俺の他に、好いた男がいたか…?」
そこは、疑問だよ。
お前の周りには、良いヤツらが集まるから。
男だろうが女だろうが
お前は人を惹きつけるものがある。
その中には、お前に恋心を抱いた野郎だって
いたに違いないから…
でも、睦は…?
「俺はいつも遠くから睦を見てて、
…見てるだけだったけど…ずっと
お前に手を伸ばしてた。
どうやって睦を抱きしめようかって」
「……」
初めて話す胸の内。
睦はふと顔を上げ
俺を見つめた。
そりゃびっくりするよな、こんな話。
「お前がよその野郎と言葉を交わすのを見る度に
小さな針で心臓を貫かれる思いだったよ。
このまま、どっかの誰かにお前が攫われんのを
俺は指咥えて見てるだけなのかって
もどかしかった。自分を呪った」
「…なんでそんな、」
「だって、なんて声かけりゃいい?
かけようがねぇだろ…
ガキの頃、あんな約束自分からしておいて、
…戻って来たと思ったら3人の嫁がいますって?
クズにも程があるだろ」
「でも…違ったでしょ?」
「事実は違ったって、
ほぼ初対面の常態の睦に
受け入れてもらえるだけの信頼は俺にはなかった。
ねじ曲がった事実が、睦の中で
違った真実になっちまうのがオチだ。
今のお前だから、理解してくれて
受け入れてもらえたんだ。
…でもあん時だってお前、
俺のこと避けて軽蔑したろ?」
「……し、た…。だって、
私だけ、みたいな上手いこと言ったくせに
そんなことを隠してるなんて思わないじゃない…」
「俺が間違いだったよな。
怖がらずにちゃんと話しておくべきだったのに」
でも、それだけじゃねぇ。
そんな思いで見下ろすと
『まだあるの?』と苦笑いされた。
いつも鈍くてもどかしいくらいなのに
こんな時ばっか鋭いでやんの。