第37章 初恋
でもこうやって見張ってでもいなきゃ
どうにかなっちまいそうなんだよ。
こんな事をしながら、
あいつにいつ声を掛けようか
期を窺っているんだ。
いや。
窺わなくたっていいだろ。
とっとと声かけりゃ。
でもだ。
なんて?
なんて声掛けんの?
あそこの小物は女物だ。
…だいたい小物なんて女物だが。
そこに俺が潜入するには
あまりに不自然だ。
だからと言って、
女への贈り物だなんて話をすれば
あいつは俺に恋仲の女がいると
勘違いするだろ…
初っ端からンな事になるワケにはいかねぇ。
ヘマやらねぇように、
どうやって近づくかねぇ…
頭を抱えていた俺の目に、
客を見送りに顔を出したあいつが映った。
相変わらず元気で、にこにこ笑顔。
客も振り返りにこりと笑い会釈をした。
あいつんとこの客は、
俺が見る限りほぼ全員、笑顔で帰って行く。
…いい店なんだなってことがよくわかる。
でも俺は見てしまったのだ。
それを見たのは、初めてこの場所で
あいつを眺めていた時の事だった。
客が見えなくなるほど離れた後、
目を閉じて大きなため息をついた姿を。
それは間違いなく、
緊張からくるものだ。
『気に入ってもらえてよかった』
そんな類の気持ちが
ものすごく伝わって来た。
接客をするのに、
めいっぱい緊張している。
にこにこしてはいるが、
本当は得意じゃないんだろう。
でも、嫌いなワケじゃなく、…
つまり、人見知り、的な…?
それを隠して頑張ってるんだなぁ、
と思った瞬間、愛しさが急激に込み上げて…
あいつとちゃんと話がしたいと
気持ちが抑えきれなくなった。
でも、…俺今日隊服だ。
この後、任務が控えてるし。
…絶対ぇおかしなヤツ扱い受けるよな。
だけど、ちょうど昼時。
他の客がいない今が好機だと踏んだ俺は
吸い込まれるように店の中へと
足を踏み入れていた。
店内は思っていたよりは広かった。
そして何より、
珍しい色を放つ簪や髪飾り、
腕輪もあれば帯飾りも…。
向かいの屋根から覗くだけでは
計り知れなかった美しい装飾が、
俺の目を惹きつけていた。