第37章 初恋
全部見透かされていて嫌だ。
「弥生についてったの?」
「娘の安全は親の義務なんだよ」
「…へぇえ」
「そんな目ぇすんなよ。別に
つけ回して監視してたワケじゃねぇぞ。
素性を調べただけだ。
ほら、そういうの俺得意だから」
「へー…」
別に私はいいけど。
弥生とうまくやってくれるんなら。
「…そんなに妬かなくても
睦の事もちゃんと見てたぞ?」
なんと…‼︎
「別に妬いてるんじゃありません!」
そんなふうに見えたかなぁ!
「そうか…。でも俺は、
ずっと、睦のこと見てた。
おかしいんじゃねぇかって
自分でも思ったよ」
遠い目をして、ふっと笑った。
それがなんだか
とっても切なく見えた…
「初めて、…厳密には初めてじゃねぇけど、
…お前の店に俺が行った時のこと、覚えてるか」
初めて…
「覚えてるよ。おっきな人だなーって」
「はは…そうだろうな。俺も
ちっせぇなって言っちまったよな」
「そう!初対面で失礼な人だって思ったもん」
「そうだろうなぁ…
なぁ、あん時…俺すっげぇ悩んでたんだ」
「悩んでた…?」
私が訊くと、
両手を大きく広げた。
それは『おいで』の合図。
彼の前まで膝で寄って行き
お腹の辺りに抱きつく。
話の続きをするために
抱きしめたかったとしか思えなくて
全身でもたれかかった私を
力いっぱい抱きしめてくれた。
毎日、通う場所がある。
人通りの多い商店街。
小さな店構え。
そのくせ、いつも人で溢れている。
元気な店主が、
帰って行く客をいつも外まで見送る店。
もっと広きゃ、
たくさんの品が置ける。
そうすればもっとたくさんの客が見込める。
もったいねぇなぁ…
どこで仕入れて来るのか、
あそこの商品は美しい物ばかりだ。
雛鶴たちに買って行ってやりてぇくらい。
俺は、いつもこの場所から
あの店を見ていた。
店のちょうど向かいの建物の、
屋根の上。
隠れるようにしながら、
時間が空けばここに来た。
……
こんな事ばっかしてて大丈夫なのか。
ヘタすりゃ変質者だ。