第37章 初恋
「睦の方がでかいだろ。
お前よりもでかい蜘蛛が出てきたんなら
びびってもいいぞ」
私よりも大きな蜘蛛……?
なんて悍ましい想像をさせるのだこの男は…!
「怖くない人は怖くないでしょうけど、
私は怖いです!私の掌くらいあるんですよ⁉︎
充分大きいです!」
「わかったわかった。
追い出してやるから安心しろ」
追い出してくれるのはありがたいけど…
引きずられるようにする私に
「歩かねぇなら担ぐぞ」
「入るんですか?」
「入らねぇと追い出せねぇだろ?」
「私も?」
「俺から離れられると思ってんのか」
「もう見たくないな…」
「蜘蛛がお前に何したんだよ」
「不法侵入です!私の家なのに…!」
「あー……まぁな…」
何だその目は…。
「蜘蛛怖いとか…」
チラリとこちらを見下ろして
「……やめた。どこにいたって?」
気を取り直したかのように前を向き
私を縁側に上げ傘を閉じてから
自分も履き物を脱いだ。
「あの箪笥の抽斗です。
上から3つ目の…」
目星をつけた宇髄さんは
抽斗を開け始めたのだった。
狭い所に入り込むのが上手な蜘蛛。
どの抽斗を開けても見つからず
全ての段を外して、
カラになった各段を丁寧に調べてくれた結果
3段目の地板の隙間に
ぴったりと隠れて居たそうで…
部屋の隅に縮こまって
ソレを見ないようにしていた私は
宇髄さんが庭先へと出て行く気配だけを
うっすらと感じていた。
あぁ…私は救われた…
「ほら、次は睦だ」
音もなく戻って来ていた宇髄さんに
髪を解かれて、
乾いた手拭いで撫でるように拭かれる。
伏せていた顔をそろりと上げると
にこっと微笑んでくれて
「着替えもするか?…フロ焚くか?」
当たり前のように提案してくれる。
「お風呂なんて、そんな贅沢はいいです…
それよりあの、…ありがとうございました」
「あぁ、蜘蛛か?いいよ、
ちゃんと、川の向こう側に
旅立ってもらったからな。
もう安心だろ」
私の髪を拭き続けながら
「俺が来てよかったなぁ?」
優しく言った。
「うん…よかった…」