第37章 初恋
——…違う‼︎
ぜんっぜん違う!
弥生の方が全然楽しそうだ!
私ってなんて淋しげな恋をしてたんだ!
ちょっと可哀想…!
「…何してんのこんなとこで」
弥生を見送った後、
いつの間にか
玄関に座り込んでいた私を覗き込んで
天元は不思議そうな顔をする。
……。
私はそれを見上げて…
「大丈夫か?」
あまりにも呆けている私が
心配になったのだろう。
天元は隣にしゃがみこんで
私の頭の上にぽんと手を乗せた。
…あんまり大丈夫じゃないかも。
「うん…大丈夫」
なのに
何故か反対の事を口にして
私はなんとか立ち上がった。
よたよたと台所に戻って来て
片付けの続きを始める。
さっきの弥生の笑顔が焼き付いて離れない。
楽しそうだったなー…
きらきらしてた。
そうそう、好きな人がいるのって
それだけで楽しいよね。
私みたいな淋しい恋してたって、
その人の事を考えたら
ちょっとしたことを頑張れたり
元気が出たり
気持ちが優しくなれたりするの。
いいな、弥生はこれからだもんね。
好きな人が出来て、
泣いたり笑ったりしながら
恋人とそれを乗り越えていくんだなぁ…
色んな『初めて』が待ってるね。
その人を想って胸を痛めるのも、
手を繋いでみるのも
ちょっとすれ違ってケンカしたり、
仲直りするのだって
みんな『初めて』。
………すっごく楽しそう。
そりゃそうだ。
だってこれから始まるんだもん。
私だってして来た事。
大切にこの心に仕舞ってある。
……
…これから、始まる。
弥生は、まだ始まってない…?
じゃあ、
「なぁ睦?調子悪ィんなら…」
私は、
「私は終わってるの…⁉︎」
「はぁ?」
伸びて来た手をガシッと握りしめて
つい口に出してしまった私に
ただ困惑の表情を浮かべる天元。
追いかけて来てたのね。
……そうだ。
私はこの人が、…
「終わってるって何だ?
疲れてんじゃねぇの、ちょっと休もうな」
私の手を外させて
よしよしと頭を抱えてくれる。
そうだそうだ。
私は疲れてるのよ。
この人がそう言うんだからそうなんだ。
その日は忙しくて忙しかった。
狭い店内はお客さんでいっぱい。
別に叩き売りをしているわけでも、
安売りをしているわけでもないのに
ものすごい勢いでお客さんが
小物を買って行く。