第36章 満つ
「起こしたの⁉︎」
僕は驚いて、腕の中の皐月に訊いた。
「うん!」
「皐月の事だ。きっと荒い起こし方しただろうに
睦月は起きなかったって。
お前夜更かしでもしてんのか?」
あらぬ疑いをかけられる。
「してないよ!成長期って言ってほしいな」
「成長期ぃ…?…まぁいい」
疑わしげに覗き込まれるが、
そこは流してくれて
「だから皐月は、睦月が死んだと思って…」
話を進めてくれた……けど、
「待って!死んだ?」
「おうよ。起こしても起きねぇからなぁ。
……まぁ安易だな」
そうだね、…そうだけど…
死ぬとかわかるの?
「だから医者を呼びに行こうと
表に飛び出したってワケだ」
「外出ちゃったの⁉︎皐月メよ⁉︎」
キッと睨むと、
眉を寄せて顎を引き
「…めんなしゃい」
可愛く謝った。
謝って済む問題じゃない。
何かあってからじゃ遅いんだ。
「まぁまぁ、そこはもう言い聞かせたし。
外に出られる環境が悪かった。
俺の責任て事で許してくれよ」
お父さんが皐月を庇う。
なんだか釈然としない。
皐月が僕以外に甘やかされるのを見ると
すごく嫌な感じ。
その相手がお父さんとなると余計に。
でも…そっか、もう処分は受けたという事で。
ならもう僕から言うことは何もない。
「…僕を助けてくれようとしたの?」
「うん!だってににしんだらやーよ」
「死なないって…。何でそんなこと知ってるの…」
まだまだ知らなくてもいい事だと思うけど。
「もしもしするー」
そう言って僕の胸に耳を当てた。
しばらくそうしている皐月を、
お父さんも僕も黙って見守った…
「うむー、ににくん、いきてます!」
僕の鼓動を聞いた皐月は
お医者様の口調を真似たように、
それでもおかしな事を口にした。
それを聞いて、
悪いとは思いつつ、
僕もお父さんも笑いを堪えきれなかった。
「…ふ、…っ生きて、ますか。よかったぁ」
何とか返事をすると、
にやける口元を手で覆ったお父さんが、
「睦月いるなら、皐月は任せたぞ?
皐月、にいちゃんと遊ぶ方がいいだろ?」
僕と皐月に向かって言う。