第36章 満つ
「皐月…?」
目を覚ました僕は、呆然としていた。
隣に居たはずの皐月が
忽然と姿を消していたからだ。
襖は、人1人が通り抜けられるくらいに
隙間があいていた。
あそこから出ていったとしか思えなかった。
這ってそこまで行くと、
いるワケがないとわかっていながらも
廊下の左右を確認した。
ひっそりとしたそこは、
まるで僕を責めているかのように感じた。
皐月…
「皐月!」
廊下の先は玄関だ。
間違いがあって、
もしかして1人で外に出てしまっていたら?
僕が…
寝るつもりなんかなかったのに、
皐月に寝たフリをして見せているうちに
本気出して眠ってしまうなんて…!
何たる失態!
皐月に何かあったら僕のせいだ!
「皐月…!」
慌てて立ち上がり、
廊下を玄関に向かって走った。
お母さんに言われて以来、
初めて走ったかもしれない。
でも今、そんな事に構ってなどいられない。
慌てすぎて、足をもつれさせながら
何とかたどり着いた玄関。
ちょうどよく……
悪く…?
応接間から出て来たお母さんと出会した…。
あ。
走ってたのバレちゃった。
…叱られるかな、
なんて
こんな時でもそんな事を考える自分が嫌だ。
「睦月…?どうしたの、顔真っ青だよ」
僕の様子がおかしい事にすぐに気づいたお母さんは
廊下を走った事になんか微塵も触れないまま、
すごく真面目な顔で
僕の肩に手を置いた。
「お母さんごめんなさい、皐月が…!」
「えぇ?ごめん、て…皐月が?どうしたの?」
わけのわからない僕の台詞に翻弄されたように
お母さんは明らかに戸惑っていた。
あぁ…もどかしい…!
「さっき皐月が来て…
一緒にお昼寝をしたんだ。
僕は寝るつもりなんかなくて…
皐月が寝たらまた、本を読もうって…」
「ん?うん…」
あまりよくわかっていないっぽかったが
お母さんは訊き返しもせず
僕を優先してくれた。
「そしたら寝ちゃって…
寝ちゃってて!起きたら居なくて…」
言いたい事がまとまらない僕は
それでも伝えたくて
あまりにも支離滅裂。
「外に出てっちゃってたらどうしよう⁉︎」