第36章 満つ
言いつけを守れなかった事を
強めに咎めるのに
「ににがー‼︎」
まっっったく聞かねぇ。
いや、効かねぇ?
睦月ん時とは大違いだな。
肝が据わってるっつーか、
話半分っつーか…
睦月?
「兄ちゃんがどうした」
「しんじゃったー!」
「なに⁉︎」
驚いた俺は咄嗟に
屋敷に向かって走り…かけた…けど、
…死んじゃった…?
睦月が?
んな事あるか。
いや、あるかもしれねぇが、
皐月の言う事を鵜呑みにしていいのか?
「……皐月、」
「おとぅ、ににもしもし!」
「わかったわかった、」
いや、わかんねぇ。
話半分どころか、
いっこもわかんねぇよ皐月の言ってる事は。
でも今はわかったことにしとく。
睦ならわかってやれるんだろう。
そんな皐月の言い分よりも…。
「もしもしーぃ‼︎」
再びわぁんと泣き出した皐月…
もしもしって何だよ。
「こら皐月。…さーっちゃん、聞け」
ほんの少し、俺の腕から尻が浮く程度に
放ってやると、一瞬息を詰めた。
「家から1人で来たな?」
「うん…」
「ダメだなぁ?」
「うん…」
涙の残る瞳が
ごめんと言っていた。
でも、きちんとしておかなければ
また同じことを繰り返す。
皐月に危険が及ぶのを防がなくてはならない。
だがそれよりも、結局俺は
あいつの、
あんな泣いて乱れる姿を
もう2度と見たくないだけなんだ。
なんで、
うちのチビども(女)は
勝手に家から抜け出しやがる。
しかも言いつけを破ってだ。
話のわかるのは睦月だけだった。
俺はひとつ息をついて、
心を落ち着けた。
さて…本題だ。
「兄ちゃんは何してた」
今屋敷には、睦がいるはずだ。
きっと晩メシの準備の真っ最中。
なにかあれば、
睦が間違いなく気づく。
「……」
俺の質問に何も答えず
ただ涙を湛えていく皐月。
…死んでたって事か。
……質問を変えよう。
「皐月は何してたんだ」
「ねんね」
そのひと言によって、
一気に合点がいった。
あー、びっくりしたし、
ホッとした。
寝てんじゃねぇかよ、睦月は。