第36章 満つ
嬉しいけれど、淋しいような…。
「お母さん、僕もいっぱいお手伝いするからね」
「うん。頼りにしてるよ」
「お母さん」
「なぁに」
「…嬉しいけど、ちょっと恥ずかしい…」
抱きしめた腕から逃れようとする睦月を
更に力を入れて引きとめる。
「えぇ、いいじゃないちょっとくらい…
久しぶりに睦月に抱きつかれて
幸せなんだけどな…」
小さい時にしたように
片手で頭を抱えながら
背中を抱きしめた。
「えー…じゃあちょっとだけだよ?」
大人びたひと言を放ち、
「…大好き」
顔を見なくても、
きっと笑っている事がわかるくらい
ご機嫌な声で
そんな事を言ってくれた、瞬間。
身体の内側から
ボコっと、強めの突き上げを感じた。
「⁉︎」
驚いた睦月は
私にくっつけていたほっぺたを離し…
2人で見つめあってしまう。
「…蹴った」
「え…?」
「いま蹴ったねー?
睦月が『大好き』なんて言うから
この子それに答えたんだよー」
すごいすごい。
今までで1番の蹴りだ。
ぽこっと遠慮がちに動くことはあったけれど
こんなに強く反応することは初めてだ。
「蹴ったの…?動くの?」
睦月は呆然としている。
心なしか、ほっぺたが紅潮しているみたい。
「動くよー。
これは睦月の事が大好きなのね」
「僕のことが…?」
嬉しそうに目を見開いて、
私のお腹を見つめたまま
「触っても、いい?」
掌をかざした。
「いいよ。優しく撫でてあげて。
話しかけてあげると、
喜ぶかもね?」
私のそんな言葉に、
素直な睦月は
「…おーい。僕、待ってるよー…?」
少し照れたように、
それでもはっきりと
お腹に向かって声をかけてくれた。
するとまた、
目で見てもはっきりわかるくらい、
ボコンっとお腹が動いた。
「わぁ…!」
感動に目を輝かせる睦月。
「ふふ、ほんとに睦月の事が好きなのかも!」
私は嬉しくなって、
「天元、睦月の声に反応するよ!」
弥生と話し込んでいた天元に振り返った。
「んー?そうか、じゃお兄ちゃんコになるかもな」