第36章 満つ
「もうこれからお姉ちゃんの言う事なんか
絶対信じないから!」
「だから何で私だけのせいなのよ!」
激しく言い合う2人を見て、
「こら、ぜぇんぶ赤ん坊に聞かれちまってるぞ」
天元が口を挟んだ。
それを聞いた途端、
ぴたりと止んだ口論。
2人の視線が私に向けられた。
……確かに、天元の言う通り。
「もう聞こえてるみたいよ?」
この場がおさまればと、
わざと笑顔を作って告げると、
言葉を止めてしまった分、
その感情が目から溢れ出したようで…
2人して、ハラハラと泣き出してしまった。
「あーあ、…」
天元は呆れている様子だけれど、
私はとっても愛しくて
2人を力いっぱい抱きしめたい気分だった。
するとなんとも都合の良いことに
睦月がこちらに
転がるように駆け寄って来た。
弥生もきっとそうしたかったんだろうけど、
弟に譲った感じ。
お姉ちゃんはツラい…
後で甘やかしてあげよう。
「お母さんん…」
唇を嚙みしめて涙を堪えようとする睦月。
「ごめんね不安にさせて。
はっきりするまで言いたくないって
私がお願いしたんだ。でも、…
さすがにおかしいとおもうよね。
早くに話すべきだったよ、ごめんなさい」
ひどい悪阻で寝込んでいた事もあるし、
気分の浮き沈みも激しかった。
その度に天元がごまかしてくれて…
しかも疲れやすくなった私の仕事を
代わってくれる数も増えていた。
それを、病気だと勘違いしたっておかしくはない。
もしかして
長いこと不安と戦っていたのかもしれないと思うと
泣くまで我慢させてしまったことが
申し訳なくて申し訳なくて…
「お母さんが元気ならいい」
睦月はそう言って、珍しく私に抱きついてくる。
私もその髪をそっと撫でて
「ごめんね元気だよ、大丈夫…」
少し離れた弥生にも目を向けた。
「うん…よかった」
睦月が呟き、弥生が頷いた。
言い争いが落ち着いたのを見計らって、
天元は元々話すつもりでいただろう
今後の計画を弥生に話し始めた。
私はといえば、
久しぶりに正面切って甘えてくれる睦月を
きゅっと抱きしめてみる。
大きくなったな…
この間まで、あんなにちっちゃくて、
かぁかかぁかって
私の後をついて回ってたのに…