第36章 満つ
「お母さん死んじゃうの⁉︎」
睦月の言葉に飛び上がった天元が、
「てめぇ縁起でもねぇこと言うんじゃねぇぞ!」
大きな手で
バンっとテーブルを打ちつけ
腰を浮かせた天元は
まったくもって冷静さを欠いた台詞を吐き捨てた。
「いくらお前でも許さねぇぞこの野郎!」
「天元!」
窘めるように名前を呼ぶと
ぱっとこちらを振り返る。
私はそれを無視して
「私は元気だってば。
どうして、そう思うの?」
できるだけ穏やかに訊くと、
睦月も、その後ろに控えていた弥生も
揃って俯いてしまった。
「大丈夫だよ、そんな事にはならないから」
安心させるためのひと言だったはずが、
何故か不安を煽ったようで…
「だってお母さん、どこか悪いんじゃないの?」
「だからその話を、
弥生にするつもりだったんだって」
割って入ってきた天元が
半分呆れたように言った。
「…それが、不安すぎて睦月に話しちゃった。
怖かったんだもん。お母さん、
どうにかなっちゃったのかなって…」
弥生も声を震わせている。
これはいけない…
まさかこんな事になるなんて。
でも、…それはそうだよね。
こんなに長いこと隠すような形になって
不安を煽らない方がおかしいんだ。
私は悪阻で具合は悪いし、
天元はいつも以上に私に寄り添ってくれるし、
理由のわからない弥生と睦月は
さぞ不安だった事だろう。
「違うの、お腹にね、赤ちゃんがいるんだよ」
たまらず、唐突に種明かしをしてしまった。
だって、
2人ともこんなに落ち込んで…
早く解決してあげたかったんだ。
「…なに、…あかちゃん?」
弥生はぽっかりと口を開けている。
「お母さんの…お腹?」
睦月も口が塞がらない。
そんな2人はゆっくりと視線を合わせ…
「お姉ちゃん‼︎うそばっかり教えないでよ‼︎」
「自分だって納得したくせに‼︎」
突然怒鳴り合いの喧嘩を始めた。
「お姉ちゃんが言ったんでしょ⁉︎
何が病気だよ!うそつき‼︎」
「だから自分だってそう思ったくせに!
私だけのせいにしないでよね‼︎」
不安が解消された今、
あまりの安心に怒りが込み上げたらしい。