第36章 満つ
再び睦月を見遣ると、
「お母さん元気なの?」
不安げに声を震わせる。
元気?
私が元気かって?
「元気だよ?どうして?」
質問の意図がわからなくて訊き返すと
睦月は更に悲しそうに眉を寄せた。
と、そこへ
「失礼します」
襖の向こうから
また新たな声。
こちらも珍しく、しおらしい声…
いつもの元気を削ぎ落としたような弥生のものだ。
…元気ないの、弥生の方じゃないかな…?
「おぅ、入んな」
まるで来るのがわかっていたかのような返事をして
天元は腕組みをしてから
そういうことかと睦月を眺める。
襖の陰から弥生の顔が覗く。
悲しげな目が私を捉えて、
大きく見開かれた。
…なんでそんなに驚くの?
まぁ、いる筈がないと思っていたんだろうけど。
でも別に、居たっておかしくないでしょ?
家族なんだし。
一緒の家にいるわけなんだから。
少しだけ目を泳がせた弥生が、
静かに睦月の後ろに控えた。
「弥生、お前睦月に話したな?」
天元が恨めしそうに弥生を見る。
弥生は俯いて
「ごめんなさい」
素直に謝った。
「いや、そんな謝られる事じゃねぇけどよ。
不安煽っちまうだろ…?」
「何の話し?」
状況の見えない私は
首謀者と思われる天元に問う。
「いや…お前の事、
そろそろ話すべきだと思ってな」
——あぁ、…そっか。
「ほら、弥生の手も必要だろ?」
私の手をぎゅっと握って
同意を促す。
…てことは、私がこうやって来なければ
天元と弥生の間で、
勝手に話は進んでいたかもしれないという事か。
それもちょっと、納得いかないけど。
まぁ天元が考えての事だ。
悪いようにはなるまい。
「どうして僕は除け者なの?
頼りないから?力不足だから?」
睦月は堪え切れないというように
悲しげな声を上げた。
その声は、まるで縋り付いてくるようだ。
「そうじゃねぇよ。睦月には、
弥生から話してもらうつもりだった。
2人で話し合って、
睦をどう助けて行くかを
決めればいいと思ったんだよ」
「助けるって何?お母さんそんなに悪いの?」
「悪い?何が悪ィんだよ」
さすがの天元も首をひねる。
ついでに私も、首をひねった。