第36章 満つ
「最近お母さん、おかしいと思わない?」
「おかしい?」
「どっか変わったと思うでしょ」
……そう言われてみれば、
思い当たるところはままある。
でも1番は、
「ちょっと、太ったかなぁ?」
そこだ。
背も低く、痩身のお母さん。
それが最近、少し丸くなったようには
感じていた。
それほど食べているわけでもないのに。
可愛いけど。
「そうなのよ。でね、昨夜
お父さんに言われたの。
明日の朝、話があるって」
「だから早起きなんだ」
「…そうだよ!
気になって寝てなんかいられないって」
少し恥ずかしそうにお姉ちゃんは言った。
「ていうか、睦月は何も言われてないわけ?」
「…言われてない」
僕とお姉ちゃんは、顔を見合わせた。
そして、
同じ事を考えたらしい。
「…睦月には、話せないのよ。
お母さんコだから」
「なに?お母さん、病気かなんかなの?」
考えただけで気が遠くなる。
寒気すらする。
お母さんが病気?
僕に話せない程の?
「ちょっと待ってよ。
病気だと、太るわけ?」
「そういう病気もあるかもしれないでしょ?
それに私、聞いちゃったの。
お母さんが熱っぽいとか、怠いとか話してるの。
お父さんだって、
最近やけにお母さんかばってるでしょ」
確かに。
「年末ずっと寝込んでたのよ?
あの元気なお母さんが」
「でもただの風邪だって言ってたよ」
「本当のこというわけないじゃん。
お母さんの代わりに
お父さんがごはん作ったし」
「最近はそうじも洗濯も
お母さんがしてるじゃないか」
「でもお父さんの気遣いは
度が過ぎると思う」
「……お姉ちゃんは、
お母さんを病気にしたいの⁉︎」
不安を煽るような事ばっかり言ってくる!
「ちょっと、泣かないでよ⁉︎」
「泣かないよ!」
泣きたいけど!
「大きな声出さないでよ!」
お姉ちゃんは
小声で叫んだ。
随分と周りを気にしているみたい。
「お母さんを病気だなんて
思いたいわけないじゃない!
でもおかしいでしょ?
なんで私だけが、改まって話があるなんて
言われなきゃならないの」
そうか…。
お姉ちゃんも不安なんだ。
そうだよね。
不安じゃないわけがない。
こんな事を僕に話さずにはいられないくらい
怖いんだ。