第36章 満つ
その都度、反応は変わると聞くけれど、
私の場合、一貫しているらしい…。
………ほんとに、出来たのかな?
昨夜の、突然の体調不良。
さっき起こした、ひどい眩暈。
その途中の眠気。
極め付けは、
醤油なんかを飲みたくなる衝動だ。
俺はそれを知っている。
前にも、同じ事があったなぁ。
台所でひとり、
醤油を飲もうとしてる睦を見つけ
慌てて止めたっけ……
あの時と、同じか…?
これは、青天の霹靂、というべきか。
普段から愛しくて仕方のない女が
俺との『愛の結晶』を宿したのかと思うと
その気持ちは風船のように膨れ上がって…
「…俺の早とちりじゃねぇよな?」
これ、もし違ってたら結構ツラいぞ。
「わかんない、けど…」
飲まないためか、
醤油から思い切り顔を背けて
戸惑っている様子の睦。
俺は壁に張り付けていた背中をはがし
「念のため大事にしねぇと……」
睦の元へ歩み寄りながら…
ふと、ある事に気がついた。
…今朝、…俺無理させたんじゃ…?
一気に青ざめた俺を見て、
「…どうしたの?」
自分の戸惑いも忘れたかのように
ぽけっと見上げてくる。
…相変わらず可愛いな、ヌケ具合が。
「身体大丈夫か…いや、大丈夫じゃねぇよな。
今朝あんな事しちまったから…」
「あんな事…」
「ごめんな」
頭を撫で、ふわりと抱き寄せた。
そうしてやっと
思い当たる事があったのか、
「あ…、それは…いいの」
ほわんとして言った。
いいだと?
「よくねぇよ。昨日調子悪かったのに
追い討ちをかけたんじゃねぇか…」
そう、全然よくねぇ。
なのに睦ときたら
「そんな事ないよ。
今朝はほんとに調子よかったし、
…私も、…嬉しかったっていうか…」
ちょっと恥ずかしそうに、
…俯きがちに言ってみたりして…
「…あ、そ」
そんなふうにされると
急激に愛しさがつのるというか、
微妙に照れるというか、
…何かしらの衝動に駆られるというか。
でも俺は、もう慈愛モード。
抱きしめたいが抱きたいとは思わない。
「そう言ってもらえて安心した。
食欲は、あるのか?今朝は食ってなかったな」