第36章 満つ
「一緒にいたいの」
「ついてってやる」
「お医者はいや」
「知ってるけど…」
そう答えてから、
「おい、いやとか言ってる場合じゃねぇだろ」
初めて気がついたかのように言い直した。
「元気なのに1人で横になってたら
色々気になって、それこそ病気になっちゃうよ」
やらなきゃいけない事がてんこ盛りなのだ。
アレやらなきゃコレもやらなきゃと
考えるばっかりで、
それらを出来ない事に心労を重ねて…
考えただけで病気になってしまいそう。
「医者には行かねぇし
寝るのもしねぇんなら、
1日中ついて回るぞ」
少し睨みをきかせた天元は
私を脅すために言ったのだろうけれど……
「……おい嬉しそうにすんなよ」
あーあ、顔に出ちゃった。
「今日のメシはなーに」
台所の壁にもたれた天元が
私に声をかけた。
さっき言った通り、
私の監視をすべく
本当について回っている。
話の内容からして
私が元気かそうじゃないかを
確かめているようだった。
「今日はー、…うどん」
「おーちょうどいいな」
私の具合が悪いからという事だろうか。
でも今は本当に大丈夫だ。
さっきまでのがウソのように元気。
昨夜弥生が作ってくれたお味噌汁。
大根や牛蒡、きのこに人参…
具沢山のそれが、
ありがたいことにまだ残っている。
温めた後に、うどんを2玉落とせば
もうそれで出来上がりだ。
それにしても…
「…弥生、上手に作ったねぇ」
感心せざるを得ない。
量はめちゃくちゃに多いけれど…。
だって昨夜のおかずのはずが、
今朝もみんなが食べたと言うのに
まだ残っているのだから。
…ちなみに私は、食欲がなかった為に
戴いていない。ごめんなさい。
「お前が作ったって言い張ってたぞ?」
くすりと笑った天元を、私は振り返った。
「弥生が作ったんだよ?」
「知ってるよ。でも弥生は
『お母さんが作った』ってずっと言ってた」
「…なんでそんな事?」
普通、自分が作ったんだよって
自慢したくならないかな。
「睦月に食わせるためだろ。
お前の様子を見に行くってきかなかったから
ちゃんと食わせる為には、
自分じゃなく睦が作ったって事にした方が
都合がよかったんじゃねぇか」