第36章 満つ
そんな保証はどこにもなかった。
でも、少しでも安心したい。
この人のそばは、
間違いなくホッとできるから。
「わかった…。ちょっとだけ、許せよ」
出来るだけ動かさないように
そうっと私を自分の膝の上に乗せた。
その体制のまま
器用に脱いだ羽織で私をくるんでから
お願いした通り程よく抱きしめてくれる。
私は目も開けられず、
お礼すら言えないまま
ただ彼にうずもれていた。
頭を揺さぶられているか、
もしくは
大地が揺れていたのかくらいの眩暈は
程なくして落ち着いた。
「ありがとう、」
そう告げるも、
天元は疑わしげだ。
「…もうちょっとこうしてろ」
「でもおさまったよ。大丈夫」
「30分かかってんだぞ。
おとなしくしとけ」
「……ごめんね、途中で寝てた」
「知ってる」
「あぁ…そうよね…」
気づかないはずがないよね。
それにしても、
そっけない受け応え…
怒っているようなそれが
心配してくれている時の態度だという事を
知らない私ではない。
「ありがと。でも…」
「洗濯モンなんかなぁ、
後からどうにでもできんだよ」
「う、……はい」
先回りされた。
干さないと、と言いかけたのを。
「1日寝て過ごすのと、
医者行くの、どっちがいい」
有無を言わさぬ物言いに、
私はぐるぐる考える。
「……どっち、…も、やだ」
「はぁ⁉︎」
「お医者はイヤだ、行かない。
ひとり寝て過ごすのもいや」
「わがまま言うなって。
許したくなっちまうだろ、具合悪いってのに…」
「もうよくなった。大丈夫だよ」
天元は、顔にかかった髪をよけて
私の顔色を窺った。
「また悪くなる。今だけの問題じゃねぇんだぞ。
どっか患ってたらどうすんだ」
「どこも悪くないよ。
また悪くなったら天元にだっこしてもらう。
そしたら良くなるもん。今もよくなった。
だからどっちもいやだ」
「お前なぁ…」
苛立ちと、困惑が混ざり合ったような表情。
困らせているのはわかってる。
でも、嫌なものは嫌だ。
どうしようもない不安が
私の中いっぱいに広がっていくのだ。
その原因がなんなのかもわからないまま。