第36章 満つ
………
今朝、ああ言ってしまった手前、
なかなか言い出せない事があった…。
明らかに、…
間違いなく体調が悪い。
昨日からどうしたんだろう。
やっぱり風邪か何かなのかな…
朝ごはんを無事に終え、
いつものように洗濯をしていた時。
洗った手拭いを物干しに引っ掛けようと仰いだら
ものすごい眩暈が私を襲い、
その場に立ち尽くしてしまった。
頭がぐわんぐわんと揺さぶられるようで
視界もはっきりしない…
それ以上はもう無理だと判断した私は
まだ濡れたままの洗濯物を持って、
なんとか縁側まで戻った。
少しの間、足を沓脱石に乗せたまま
座って庭を眺めていたが、
何だかひどく怠くって
そのままコロンと横になる…
と、
なんとも折の悪い事に
「………どうした」
天元がやって来ていた。
そこに寝転んだ私を、
腰を折って怪しげな瞳で覗き込んでいる。
いつもなら、がばっと起き上がって
なんでもないよ、とごまかしたりするのだけど
「やっぱりヘンだった…」
今日はそんな余裕もなかった。
大丈夫、なんて言える状態じゃない。
私の性格を知り尽くしている天元は
はっきりと自分の不調を伝えた事を受けて、
「…よっぽどだな」
やっぱり理解してくれた。
「んー…」
その通りです。
「動かしても大丈夫か?」
普段なら絶対にしない、
縁側なんかでうずくまってしまった私の
肩に手をかけて
顔を覗き込む。
「ん、…眩暈がひどいの…」
「眩暈?なんだ、急に…」
足に引っ掛けたままの草履をそっと脱がせてくれて
全身を抱きかかえるようにして身を起こさせた。
「部屋行くぞ」
「待って動きたくない…」
上体が中途半端に起き上がった姿勢。
自分で動いたわけじゃないのに
眩暈はさっきよりも酷くなっていた。
思わず口にした弱々しい要求に
天元は困り果てて
「そんなにひでぇのか?
ここは冷えるだろ…
俺はどうしたらいい」
身を強張らせる。
そっか…寒いから、
部屋に行ってくれるつもりだったのね。
でも私、今は動かされたくない…
「もう少し、…ぎゅってしてて。
きっとよくなるから…」